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私有地の上空、所有権はどこまで及ぶのか。「一律の基準は存在しない」が政府の答え

公開 2026-09-04 更新 2026-09-04 読了 約10分

他人の土地の上空でドローンを飛ばしてよいのか。この問いには、政府が文書で答えを出しています。 内閣官房小型無人機等対策推進室が法務省民事局と調整のうえまとめた整理は、土地所有権が及ぶ空間の範囲を「利益の存する限度」とし、「常に土地所有者の同意を得る必要がある訳ではない」と明言しています。 そして高さについては「一律の基準は存在しない」、さらに「航空法において規定されている最低安全高度は……土地所有者の『利益の存する限度』の範囲を定めるものではない」とまで書かれています。 つまり、高さの数字で線を引く説明は、いずれも公式の整理とは一致しません。判断されるのはその土地の具体的な使用態様です。

よく見る説明と、公式の記載
この分野は制度改正が続いており、古い説明や条文上の裏付けがない説明が広く流通しています。この記事で扱う範囲について、実際の一次ソースの記載と突き合わせます。
よく見る説明私有地の上空は地上から一定の高さまで所有権が及ぶ。
公式にはこう内閣官房(法務省民事局と調整済)は「高度についての一律の基準は存在しない」と明言しています。所有権が及ぶのは「利益の存する限度」で、事案ごとに判断されます。
出典 内閣官房「無人航空機の飛行と土地所有権の関係について」
よく見る説明他人の土地の上空を飛ぶには常に所有者の同意が必要。
公式にはこう「常に土地所有者の同意を得る必要がある訳ではない」と整理されています。
出典 同資料

出発点は民法第207条

民法第206条(所有権の内容)「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。」
民法第207条(土地所有権の範囲)「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。」

条文はこれだけです。「何メートルまで」という数字は民法のどこにも書かれていません。「上下に及ぶ」とだけ定めた条文を、無限の高さまで及ぶと読むわけにはいかないため、解釈によって範囲を画する必要が出てきます。その解釈を政府として整理したのが、次の文書です。

政府の公式整理を原文で読む

内閣官房小型無人機等対策推進室「無人航空機の飛行と土地所有権の関係について」(令和3年6月28日)。小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会の資料として公表されたもので、法務省民事局とも調整の結果としてまとめられています。以下は原文の引用です。

所有権が及ぶ範囲

「その所有権が及ぶ土地上の空間の範囲は、一般に、当該土地を所有する者の『利益の存する限度』とされている。このため、第三者の土地の上空において無人航空機を飛行させるに当たって、常に土地所有者の同意を得る必要がある訳ではないものと解される。」
「この場合の土地所有者の『利益の存する限度』の具体的範囲については、一律に設定することは困難であり、当該土地上の建築物や工作物の設置状況など具体的な使用態様に照らして、事案ごとに判断されることになる。」

「一律の高度以下なら同意が必要」なのか

「当該土地の使用態様の如何にかかわらず、無人航空機が土地の上空を飛行するに当たって当該土地の所有者の同意が必要となる高度についての一律の基準は存在しない。」
「なお、航空法において規定されている最低安全高度は、あくまで安全確保の観点からの規制であり、土地所有者の『利益の存する限度』の範囲を定めるものではない。」

2つ目の引用は特に重要です。航空法の高度規制と、民法上の所有権の範囲は、まったく別の物差しであると政府が明示しています。航空法の数字を持ってきて所有権の境界を説明することは、この整理と正面から食い違います。

総務省ガイドラインの記述

「土地の所有権は、民法第207条の規定により、土地所有者の利益の存する限度内でその土地の上下に及ぶと解されるため、土地の所有者の許諾を得ることなくドローンをある土地の上空で飛行させた場合には、その土地の具体的な使用態様に照らして土地所有者の利益の存する限度内でされたものであれば、その行為は土地所有権の侵害に当たると考えられる。」

よく言われることと、公式の整理の対照

よく見かける説明公式の整理はどうなっているか
所有権は地上三百メートルまで及ぶ そのような基準は公式には示されていません。内閣官房の整理は「高度についての一律の基準は存在しない」と明言しています
地上百五十メートル未満は土地所有者の領域である 同上。150mは航空法の空域規制の数字であって、所有権の範囲を定めたものではありません
航空法の最低安全高度より上なら所有権は及ばない 公式に明確に否定されています。「最低安全高度は……利益の存する限度の範囲を定めるものではない」
他人の土地の上空を飛ばすには常に所有者の同意が必要 公式に明確に否定されています。「常に土地所有者の同意を得る必要がある訳ではない」
実際の判断基準は何か その土地上の建築物や工作物の設置状況など具体的な使用態様に照らして、事案ごとに判断される
注意:「一律の基準がない」は「自由に飛ばしてよい」という意味ではありません。基準がないということは、事後に争われたときの結論をあらかじめ数字で確定できないということでもあります。数字に依拠した安心も、数字に依拠した不安も、どちらも根拠を欠きます。

では何で判断されるのか

公式の整理が示す判断要素は「具体的な使用態様」です。同じ高さを飛んでも、土地の使われ方によって結論が変わり得るということになります。

その土地に建築物や工作物がどう設置されているかを見る(現況の使用態様)
将来の利用可能性については、容積率や用途制限からある程度予測できるとされている
その土地の利益が及んでいる空間の内側を飛ぶ → 所有権侵害となり得る。所有者の承諾を得るのが安全
利益の存する限度の外を飛ぶ → 公式の整理では、常に同意が必要とはされていない
高さの数字ではなく、土地の使われ方で考える。これが公式の整理に沿った検討の順序

実務では、この判断を現場で確定させることは困難です。低空で建物に接近する飛行、住宅の敷地に沿ってホバリングする飛行などは、使用態様との関係で問題になりやすい類型といえます。撮影を伴う場合は、次に述べるプライバシーの問題も同時に生じます。結論を数字で言い切れない領域だからこそ、土地の所有者・占有者に事前に話を通しておくことが、実務上もっとも確実です。

「上空通過権」は設定できるのか

土地の上空を継続的に使いたい場合に、何らかの権利を設定できないかという発想があります。公式の整理は、この点にも触れています。

  • 区分地上権(民法第269条の2)は工作物の所有を目的とするものであり、無人航空機の飛行のために設定することはできないとされています。
  • 地役権(民法第280条)は他人の土地を自己の土地の便益に供するための権利であり、同様に飛行のために設定することはできないとされています。
  • 土地所有者が、利益の存しない空間について利用契約を締結したとしても、相手方が排他的な利用権を取得することにはならず、第三者の飛行を妨げることはできないとされています。

つまり「上空通過権を買う」という解決策は、現行の民法の枠組みでは想定されていない、というのが公式の整理です。

小型無人機等飛行禁止法との接続

土地所有権の話は、別の法律の適用除外とも直結します。小型無人機等飛行禁止法の第10条第2項第2号は、土地の所有者・占有者(正当な権原を有する者に限る)又はその同意を得た者が、当該土地の上空で行う飛行を適用除外としています。

同法の対象施設周辺地域は、2026年7月14日の改正でおおむね1,000mに拡大されました。市街地では、対象施設から1km圏に入る土地が相当広く存在することになります。その圏内で飛ばすとき、土地所有者・占有者の同意は「あれば安心」ではなく、適用除外の要件そのものになります。ここでは民法上の議論とは別に、同意の有無が明確な法律要件として働くわけです。

補足:同法の適用除外に当たる場合でも、飛行開始の48時間前までに都道府県公安委員会等への事前通報が必要です。詳細は小型無人機等飛行禁止法の記事を参照してください。

プライバシー・肖像権の実務

所有権の問題をクリアしても、撮影が伴えば別の問題が残ります。総務省の「『ドローン』による撮影映像等のインターネット上での取扱いに係るガイドライン」(平成27年9月策定、平成29年5月最終改定)が実務上の指針です。

基本的な考え方

  • 撮影行為の違法性は、①撮影の必要性(目的)、②撮影方法・手段の相当性、③撮影対象(情報の性質)等を基に、総合的かつ個別的に判断されるとされています。
  • プライバシー侵害は公開する利益と公開により生じる不利益との比較衡量、肖像権侵害は受忍限度を超えるかで判断されるとされています。
  • 撮影行為が違法な場合、それをインターネット上で閲覧可能にした行為自体も原則として違法とされています(最高裁平成17年11月10日判決)。
  • ガイドラインは、ドローンが「住居の塀よりも高い上空を飛行するのが一般的で、通常は塀によって人の視界に入らない映像等を撮影可能」であることから、ストリートビュー型のサービスと比較してプライバシー侵害の危険性は一段大きいと整理しています。

具体的に注意すべき事項

場面ガイドラインが求めていること
撮影時 住宅地にカメラを向けない/カメラの角度を住宅に向けない/ズームを住宅に向けない/高層マンション等にカメラを水平に向けない/住宅地周辺ではライブストリーミング配信をしない
公開前の加工 ぼかし処理の対象は、人の顔、ナンバープレート、表札、住居の外観、住居内の様子、洗濯物その他生活状況を推測できる私物
公開後 電気通信事業者は削除依頼に適切に対応する(プロバイダ責任制限法および同法の名誉毀損・プライバシー関係ガイドラインを踏まえる。未成年者の顔写真は原則削除可)

法的リスクの整理

  • 民事:民法第709条(不法行為に基づく損害賠償)
  • 刑事:軽犯罪法第1条第23号(浴場・更衣場・便所等ののぞき見)、各都道府県の迷惑防止条例
  • 行政:個人情報保護法(不正の手段による個人情報の取得の禁止)

個人情報保護法との関係では、表札の氏名が判読可能な場合や個人識別性のある容貌が含まれる場合、その情報は「個人情報」に当たるとされています。ぼかし加工をしても、加工前の映像を保存していればそれは個人情報のままです。なお、一般私人が趣味で撮影するケース等は、同法の対象(個人情報取扱事業者)から外れます。

ガイドラインの版に注意:このガイドラインは平成29年5月が最終改定です。その後の法改正で条番号が動いており、ガイドライン中の個人情報保護法の条番号や、小型無人機等飛行禁止法の題名・条番号は現行と一致しません。考え方の部分は現在も参照されていますが、条番号をそのまま引き写して使わないでください。条文はe-Gov法令検索で現行版を確認するのが確実です。
必ずあわせて確認:「民法上、常に同意が必要とは限らない」という整理は、土地・施設の管理者による民事上の禁止や、条例の一般条項に基づく運用上の禁止を免除するものではありません。実例として、東京都の都立公園では東京都立公園条例第16条第10号の「都市公園の管理に支障がある行為」という一般条項を根拠に飛行を禁止する運用が行われており、違反には同条例第25条により5万円以下の過料が定められています。飛行地点の土地・施設の管理者が独自に禁止していないかは、法令とは別に必ず確認してください。

よくある質問

結局、他人の土地の上を何メートル以上なら飛ばしてよいのですか。
その形の答えは公式には存在しません。内閣官房の整理は「高度についての一律の基準は存在しない」と明言しており、判断は当該土地上の建築物や工作物の設置状況など具体的な使用態様に照らして事案ごとに行われる、とされています。高さの数字で線を引く説明には根拠がありません。
航空法の高度規制を守っていれば所有権の問題はクリアできますか。
できません。公式の整理は「航空法において規定されている最低安全高度は、あくまで安全確保の観点からの規制であり、土地所有者の『利益の存する限度』の範囲を定めるものではない」と明記しています。2つは別の物差しです。
土地所有者と契約して上空を専用で使う、ということはできますか。
公式の整理では、区分地上権も地役権も無人航空機の飛行のために設定することはできないとされています。また、土地所有者が利益の存しない空間について利用契約を結んでも、相手方が排他的利用権を取得することにはならず、第三者の飛行を妨げることはできないとされています。
重要施設の近くの他人の土地の上を飛ぶ場合はどうなりますか。
小型無人機等飛行禁止法の対象施設周辺地域(2026年7月14日以降はおおむね1,000m)に入る場合、同法第10条第2項第2号の適用除外を使うには、土地の所有者・占有者(正当な権原を有する者に限る)又はその同意を得た者であることが要件になります。この場面では同意の有無が明確な法律要件として働き、加えて48時間前までの事前通報も必要です。
撮影した映像を公開するとき、どこまでぼかせばよいですか。
総務省ガイドラインは、人の顔、ナンバープレート、表札、住居の外観、住居内の様子、洗濯物その他生活状況を推測できる私物をぼかし処理の対象として挙げています。撮影時に被撮影者の同意を得ることを前提としつつ、それが困難な場合の対応として整理されたものです。
本記事は2026年9月4日時点の情報です。 引用した総務省ガイドラインは平成29年5月が最終改定であり、記載されている法令の条番号は現行と一致しない箇所があります。条文は必ずe-Gov法令検索で現行版をご確認ください。

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