ドローンの飛行日誌の書き方。3種類の記録と、毎回の運用
飛行日誌は、特定飛行を行う場合にだけ課される義務です(航空法第132条の89第1項)。特定飛行に当たらない飛び方しかしないのであれば、法律上の備付け義務はありません。 義務が生じる場合、備えるべきものは1冊ではなく飛行記録・日常点検記録・点検整備記録の3種類です(航空法施行規則第236条の84第1項)。 そして運用上の要点は、機体ごとに備えること、登録されている間は記載と保管を継続すること、飛行時に紙または電磁的記録で常時携行することの3つに集約されます。 本記事は、この3点を業務で毎日回すための運用設計として書きます。機体が複数ある場合、操縦者が複数いる場合、電子で運用する場合の分担まで踏み込みます。
航空法 第132条の89第1項航空法施行規則 第236条の84第1項誰に義務があるのか──条文の線引き
まず条文を読みます。航空法第132条の89第1項は次のとおりです。
「無人航空機を飛行させる者は、特定飛行を行う場合には、飛行日誌を備えなければならない。」
ここで効いているのは「特定飛行を行う場合には」という限定です。特定飛行とは、航空法第132条の87が定義する概念で、同法第132条の85第1項各号の空域(空港等の周辺、緊急用務空域、地表・水面から150m以上、人口集中地区の上空など)における飛行、または同法第132条の86第2項各号の方法(夜間、目視外、人・物件から30m未満、催し場所上空、危険物の輸送、物件投下)によらない飛行のいずれかを指します。
裏を返すと、特定飛行に一切当たらない飛び方しかしないのであれば、飛行日誌の備付けは航空法上の義務ではありません。趣味で郊外の日中に目視内で飛ばすだけ、という運用がこれに当たり得ます。この記事を探して読んでいる方の多くは逆側、つまり業務として特定飛行を繰り返す側だと思いますので、以下は義務が生じる前提で進めます。
3種類の記録と、記載項目のすべて
航空法施行規則第236条の84第1項は、飛行日誌を「飛行記録、日常点検記録及び点検整備記録」と定めています。つまり「飛行日誌」という単一の帳簿があるのではなく、性格の違う3つの記録の総称です。書くタイミングも書く人も異なります。
| 種類 | いつ書くか | 主な記載項目 |
|---|---|---|
| 飛行記録 | 飛行させた都度 | 飛行年月日/飛行させた者の氏名・技能証明書番号/飛行の目的及び経路/飛行させた飛行禁止空域及び飛行の方法/離陸場所・離陸時刻/着陸場所・着陸時刻/飛行時間/製造後の総飛行時間/飛行の安全に影響のあった事項/不具合及びその対応 など |
| 日常点検記録 | 飛行前の点検ごと | 実施年月日/実施場所/実施者の氏名/点検項目ごとの結果(外部点検・作動点検等) など |
| 点検整備記録 | 点検・修理・改造・整備を行ったとき | 実施年月日/実施場所/実施者の氏名/点検、修理、改造又は整備の内容・交換部品名/実施理由/最近の機体認証後の総飛行時間 など |
実務で最も抜けやすいのは、飛行記録の「製造後の総飛行時間」と、点検整備記録の「最近の機体認証後の総飛行時間」です。いずれも累計値なので、1回でも記入を飛ばすと後から復元できません。フライトログを機体側アプリから拾える機種であっても、累計はこちら側で繰り上げていく必要があります。
もう1つ抜けやすいのが「飛行の安全に影響のあった事項」です。何も起きなかった日に空欄で済ませてしまう運用が定着すると、実際に何かあった日だけ記入されることになり、記録全体の信頼性が落ちます。「特記なし」を明示的に書く運用にしておくほうが安全です。
機体ごとに備える。保管はいつまでか
国土交通省の「無人航空機の飛行日誌の取扱要領」は、飛行日誌を機体ごとに備え、機体ごとに記載するという運用を示しています。操縦者ごとでも、案件ごとでもありません。ここを取り違えると、機体を増やしたときに記録が一気に破綻します。
保管期間についても同要領が明示しています。
「飛行日誌の記載及び保管は、無人航空機が登録されている間は継続しなければならない。」
常時携行という要件をどう満たすか
取扱要領は、操縦者が飛行時に飛行日誌を「紙媒体又は電磁的記録により常時携行」することを求めています。事務所のキャビネットに保管してあるだけでは、この要件を満たしません。
ここで実務上の分岐が生まれます。紙で運用するなら、機体ごとのバインダーを現場に持ち出す必要があります。機体3台を別々の現場に出す日は、バインダーも3冊が別々に動きます。電磁的記録が認められているのは、この物理的な破綻を避けるためだと考えてよいでしょう。取扱要領は電磁的な記録・保管を認めています。
機体が複数あるときの回し方
飛行日誌が機体単位である以上、機体台数がそのまま管理単位の数になります。5台あれば5組の記録が並走します。ここで効いてくる設計上の判断は次の3つです。
1. 台帳のキーを登録記号に統一する
社内で「A号機」「DJIの新しいほう」といった通称を使っていると、記録と機体の対応が時間とともに曖昧になります。飛行日誌のキーは登録記号に統一し、通称は補助表記に落とすのが安全です。登録記号は機体側に表示されているため、現場での突合も速くなります。
2. 累計飛行時間は飛行ごとに、機体の日誌1つで積み上げる
製造後の総飛行時間は機体に紐づく累計値です。飛行日誌の取扱いに関するガイドライン5(1)③は「前回の『総飛行時間』に今回の『飛行時間』を加算した時間を記載」するとしており、航空法第132条の89第2項も「遅滞なく」記載するよう求めています。累計欄を後から日次でまとめて確定するのではなく、飛行のたびに、その機体の日誌で前回値に今回の飛行時間を加算していくのが前提です。複数の操縦者が同じ機体を使う場合も、記録を操縦者ごとに分けず機体ごとの日誌1つに飛行順で書き継ぐと、累計が途切れません。機体管理者は、累計が飛行ごとにつながっているかを確認する役に回すと崩れにくくなります。(2026年9月16日訂正)
3. 予備機・貸出機を記録の外に置かない
スポットで借りた機体、メーカーから借りた代替機であっても、その機体で特定飛行を行うのであれば飛行日誌の対象です。自社所有かどうかは条文上の要件ではありません。ただし一時的なレンタルの場合、DIPSの登録FAQは「所有者及び使用者のいずれもがレンタル会社」になるのが基本としており、ガイドラインのレンタル事業者の記載例(別添1-3)も、借り手の飛行をその機体の同じ飛行記録に続けて記入し、総飛行時間を積算しています。借りた側で別の記録を起こすと、機体の総飛行時間が途切れます。借りる時点で、貸し手の飛行日誌への記入のしかたと直前の総飛行時間を確認しておくと、当日になって記録が空白のまま飛ぶ事態を避けられます。(2026年9月16日訂正)
操縦者が複数いるときの記入分担
飛行記録には「飛行させた者の氏名」と「技能証明書番号」を書く欄があります。つまり記録は誰が飛ばしたかを識別する前提で設計されています。一方、国土交通省の無人航空機の飛行日誌の取扱いに関するガイドライン(令和5年3月31日制定)2①は、複数の操縦者により飛行を行う場合は「主たる操縦者(訓練飛行の場合は最終的に責任を持つ教官等の操縦者)が代表して飛行日誌を携行し、飛行記録及び日常点検記録を記載する」としています。操縦者の交代ごとに飛行を分けて記録すべきかは、公式には明示されていません。(2026年9月15日訂正)
複数人体制の場合、次のように役割を切り分けると、記入漏れと二重記入の両方を防げます。
| 役割 | 担当する記録 | タイミング |
|---|---|---|
| 操縦者 | 飛行記録のうち、自分が飛行させた分(年月日、氏名、技能証明書番号、目的・経路、空域と飛行の方法、離着陸場所・時刻、飛行時間、総飛行時間=前回値+今回の飛行時間、安全に影響のあった事項) | 飛行の都度、その場で |
| 点検実施者 | 日常点検記録 | 飛行の都度、飛行前に(機体設計者が実施頻度を指定しない限り、原則「1飛行毎」。ガイドライン4(2)①)(2026年9月15日訂正) |
| 機体管理者 | 飛行記録の総飛行時間が飛行ごとにつながっているかの確認、点検整備記録 | 定期的に/整備の都度 |
| 運航管理責任者 | 3種類の突合と保管、携行状態の確認 | 週次など定例で |
小規模事業者であれば1人が複数の役割を兼ねて構いません。重要なのは人数ではなく、どの欄を誰が確定させるのかが決まっていることです。決まっていない欄は、まず間違いなく空欄のまま残ります。
電子で運用する場合に満たすこと
取扱要領4(6)は、様式1〜3に記載の内容を網羅することを前提に、電磁的な記録・保管を認めています。ガイドライン2②も、クラウドや専用アプリでの記録・管理を可能としたうえで、様式1〜3に記載すべき事項が「一括して参照又は提示可能である必要」があり、「各様式のような形で表示又は印刷が可能であれば問題ありません」としています。(2026年9月15日追記)この前提を満たすなら、表計算ソフトでも、市販の飛行管理アプリでも構いません。ただし、電子化しても要件そのものは変わらないため、次を満たせているかを自社で確認する必要があります。
- 機体ごとに切り出せること:登録記号で絞り込み、その機体の3種類の記録を通しで提示できること
- 3種類が揃っていること:飛行記録だけを電子化し、日常点検記録が紙のまま散逸する構成になっていないこと
- 現場で参照できること:常時携行の要件を満たすため、通信環境が悪い現場でも端末上で開けること(オフライン閲覧またはPDF書き出し)
- 登録期間中ずっと残ること:無料プランの保存期限やアカウント失効で消えない保管先を別に持つこと
- 誰が記入したか分かること:氏名欄が空のまま流用できる様式は、複数人運用で破綻します
罰則──10万円以下の罰金
飛行日誌に関する罰則は、航空法第157条の11に置かれています。
| 違反の内容 | 罰条 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 飛行日誌を備えなかった | 航空法第157条の11第2号 | 10万円以下の罰金 |
| 記載すべき事項を記載せず、又は虚偽の記載をした | 航空法第157条の11第3号 | 10万円以下の罰金 |
金額そのものは航空法の無人航空機関係の罰則の中では小さいほうです。しかし、飛行日誌が問題になる場面は単独では起きにくく、事故や苦情をきっかけに記録の提示を求められる流れで表面化します。そのときに記録がない、あるいは辻褄が合わないという状態は、金額以上の実害につながります。逆に、日々の記録がそろっている事業者は、そこで説明ができます。
なお、特定飛行を行うときは飛行日誌の備付けとは別に、あらかじめ飛行計画を通報する義務もあります(航空法第132条の88第1項)。こちらは通報を怠ると30万円以下の罰金です。飛行日誌が「飛んだ後の記録」なのに対し、飛行計画は「飛ぶ前の届出」で、セットで回すものです。詳細はドローンの飛行計画の通報はいつ必要かにまとめました。