全国包括は取れるか。標準マニュアル02の使い方
飛行経路を特定しない申請、いわゆる全国包括は可能です。国土交通省が「飛行経路を特定せずに申請いただくことも可能です。(日本全国、○○県など)」と明示しており、期間は原則3か月・最長1年です。 問題は何が取れて、何が取れないか。その線は、航空局標準マニュアル02の表紙にほぼそのまま書かれています。 標準マニュアル01の副題には「空港等周辺・150m以上・催し」が入っていますが、02の副題には入っていません。これが、全国包括でこの3つが取れない構造的な理由です。そして01と02は併用できません。 この記事は、2つの標準マニュアルの差と審査要領の節構成を突き合わせて、全国包括の適用範囲を確定させます。包括申請そのものの全体像は包括申請とは:個別申請との違いと使い分けをご覧ください。
航空局標準マニュアル02(令和7年12月26日版)航空局標準マニュアル01(8)/02(7)飛行経路を特定しない申請は可能。期間は3か月〜1年
まず前提を確定させます。国土交通省の飛行許可・承認手続の案内には、次のように書かれています。
「全国包括」という呼び名は俗称で、正式な制度名ではありません。実体は飛行の経路を特定せずに出す包括申請です。範囲は「日本全国」でも「○○県」でも構いません。申請先は、飛行場所が日本全国の場合、申請者の住所を管轄する地方航空局または空港事務所になります。
ここで押さえておくべき条件が2つあります。1つは航空局標準マニュアル02に沿った安全体制の設定が必要であること。もう1つは標準マニュアル01との併用ができないことです。この2つ目が、後述するとおり設計上いちばん効いてきます。
なお期間の上限にも注意が必要です。審査要領は包括申請の期間を「原則3ヶ月以内」とし、申請内容に変更を生ずることなく継続的に飛行させる場合に「1年を限度」としますが、原文には「(5-2、5-3及び5-4に掲げる飛行を同時に行う場合を除く。)」という括弧書きが付いています。5-2はDID上空、5-3は夜間、5-4は目視外です。この3つを同時に行う飛行を含む申請は、全国包括であっても1年上限の対象外となります。
標準マニュアル01と02の決定的な違い
航空局標準マニュアルは、国土交通省が公開している飛行マニュアルの雛形です。自作の飛行マニュアルを作らずに、これに従うと申告することで申請を通す運用が広く使われています。01と02の関係は、多くの解説で「01は場所を特定する場合、02は特定しない場合」とだけ説明されますが、より重要なのは表紙に並んでいる飛行の種類が違うことです。
| 航空局標準マニュアル01 | 航空局標準マニュアル02 | |
|---|---|---|
| 副題(表紙の記載) | 空港等周辺・150m以上・DID・夜間・目視外・30m・催し・危険物・物件投下 | DID・夜間・目視外・30m・危険物・物件投下 |
| 適用 | 場所を特定した申請について適用 | 場所を特定しない申請について適用 |
| 分量 | 10ページ | 9ページ |
| 併用 | 01と02の併用はできない | |
この構造は、後述する審査要領側の記述とも整合しています。マニュアルの表紙に書かれていないものは、そのマニュアルで安全体制を示したことにならないという、きわめて素直な理屈です。逆に言えば、標準マニュアル02の副題に並ぶDID上空・夜間・目視外・30m未満・危険物の輸送・物件投下の6つは、経路を特定せずに申請できる候補ということになります。
その上で見ると、標準マニュアル02の副題からは、カテゴリーⅡAのうち空港周辺・150m以上・催し場所上空の3つだけが落ちていることが分かります(危険物輸送と物件投下は02にも入っています)。落ちている3つは、いずれも場所そのものが危険の源になる類型です。場所を特定しない申請と相性が悪いのは、理屈として自然です。
第3章の節構成を並べると差がはっきりする
両マニュアルの第3章は「安全を確保するために必要な体制」です。ここの節構成を並べると、01と02の差が量として見えます。01は3-2から3-10までの9節、02は3-2から3-6までの5節です。
| 航空局標準マニュアル01(9節) | 航空局標準マニュアル02(5節) |
|---|---|
| 3-2 進入表面等の上空の空域 | 3-2 DID上空/30m未満 |
| 3-3 進入表面・転移表面の下の空域及び敷地上空 | 3-3 夜間飛行 |
| 3-4 150m以上の高さの空域 | 3-4 目視外飛行 |
| 3-5 DID上空/30m未満 | 3-5 危険物の輸送・物件投下 |
| 3-6 催し場所の上空 | 3-6 非常時の連絡体制 |
| 3-7 夜間飛行 | — |
| 3-8 目視外飛行 | — |
| 3-9 危険物の輸送・物件投下 | — |
| 3-10 非常時の連絡体制 | — |
差分は明確です。01にあって02にないのは、進入表面等の上空の空域(3-2)/進入表面・転移表面の下の空域及び敷地上空(3-3)/150m以上の高さの空域(3-4)/催し場所の上空(3-6)の4節。空港等周辺が2節に分かれているため節数では4つですが、飛行の類型としては空港等周辺・150m以上・催し場所上空の3つで、副題の差と一致します。
両者に共通するのは、DID上空/30m未満・夜間飛行・目視外飛行・危険物の輸送と物件投下・非常時の連絡体制の5領域です。つまり02は01の部分集合という関係にあり、01のほうが広い——ただし01は場所を特定した申請にしか使えない、という構造になっています。
全国包括ができない飛行を2段で整理する
ここから審査要領側の記述に移ります。審査要領は、飛行の経路が特定されない場合の記載について次のように定めています。
読み方が難しい条文ですが、要点は「範囲を可能な限り限定し記載する」という部分です。まったく特定しない全国包括のままでは通らず、範囲を絞らせられるという意味になります。さらに催し場所上空については、飛行の日時および飛行の範囲を可能な限り限定して記載させる扱いになっており、日時の特定まで要求されます。整理すると2段になります。
| 段 | 該当する飛行 | 審査要領上の要求 | 実務上の扱い |
|---|---|---|---|
| ①範囲を 限定させられる |
・5-1(1号告示空域、その他空港等における進入表面等の上空の空域、緊急用務空域、地表若しくは水面から150m以上の高さの空域) ・5-2と5-3を同時に行う場合(DID上空×夜間) ・趣味目的 |
範囲を可能な限り限定して記載し、地図上に範囲を示した資料を添付 | 「日本全国」のままでは出せない。エリアを絞る |
| ②日時も 特定が必要 |
5-6(多数の者の集合する催し場所の上空における飛行) | 飛行の日時および飛行の範囲を可能な限り限定して記載 | 事実上の個別申請。案件ごとに日程から逆算する |
この2段と、標準マニュアル02の副題の欠落を重ねると、線がきれいに揃います。①の空港等周辺・150m以上と、②の催し場所上空は、標準マニュアル02の対象外です。マニュアル側で扱えず、審査要領側でも範囲や日時の限定を求められる。同じ結論に別方向から到達しています。
審査要領 第5章の節見出し対応表(全角の実務メモ)
ここまで「5-1」「5-2」といった節番号を使ってきました。審査要領を実際に開いて確かめたい方のために、第5章の節見出しを対応表にしておきます。
| 節 | 見出し(原文) | 通称 | 標準マニュアル02の対象 |
|---|---|---|---|
| 5-1 | 1号告示空域、その他空港等における進入表面等の上空の空域、緊急用務空域、地表若しくは水面から150m以上の高さの空域 | 空港等周辺/緊急用務空域/150m以上 | 対象外 |
| 5-2 | 人又は家屋の密集している地域の上空における飛行 | DID上空 | 対象 |
| 5-3 | 夜間飛行 | 夜間 | 対象 |
| 5-4 | 目視外飛行 | 目視外 | 対象 |
| 5-5 | 地上又は水上の人又は物件との間に30mの距離を保てない飛行 | 30m未満 | 対象 |
| 5-6 | 多数の者の集合する催し場所の上空における飛行 | 催し場所上空 | 対象外 |
| 5-7 | 危険物の輸送 | 危険物輸送 | 対象 |
| 5-8 | 物件投下 | 物件投下 | 対象 |
同じ理由で、審査要領の条項を社内マニュアルに転記するときは、原本の表記のまま(全角)で残すことをおすすめします。数年後に別の担当者が原本と突き合わせるとき、表記が揃っているかどうかで所要時間が変わります。
標準マニュアルは全部で7種類ある
「標準マニュアル」と言えば01と02のことだと思われがちですが、国土交通省の飛行許可・承認手続ページからは7種類がリンクされています(いずれも令和7年12月26日版)。用途が合致するものがあれば、そちらを使うほうが自作より早く済みます。
| 名称 | 想定用途 |
|---|---|
| 航空局標準マニュアル01 | 場所を特定した申請 |
| 航空局標準マニュアル02 | 場所を特定しない申請(全国包括) |
| 標準マニュアル01(インフラ点検) | インフラ点検で場所を特定する場合 |
| 標準マニュアル02(インフラ点検) | インフラ点検で場所を特定しない場合 |
| 標準マニュアル(空中散布) | 農薬等の空中散布 |
| 標準マニュアル(研究開発) | 研究開発目的の飛行 |
| 標準マニュアル(レベル3.5飛行・機上カメラで立入管理措置) | 機上カメラによる立入管理措置を用いる飛行 |
インフラ点検については、01と02が別立てで用意されている点に注意してください。点検業務を全国で回している事業者は、汎用の航空局標準マニュアル02ではなく、インフラ点検の02が用途に合う可能性があります。各PDFのURLは記事末尾の一次ソース欄にまとめています。
01と02に共通する要求:10時間の操縦練習
どちらの標準マニュアルを選んでも、共通して求められる事項があります。全国包括を検討する段階で人員計画に効いてくるので、先に確認しておく価値があります。
| 要求事項 | 内容 |
|---|---|
| 10時間以上の操縦練習 | 「プロポの操作に慣れるため、以下の内容の操作が容易にできるようになるまで10時間以上の操縦練習を実施する」とされています |
| 監督者の配置 | 操縦練習は十分な経験を有する者の監督の下に行います |
| 練習場所 | 許可等が不要な場所、または訓練のために許可等を受けた場所で行います。目視外飛行の練習は、訓練のために許可等を受けた場所または屋内で行います |
| 物件投下 | 5回以上の物件投下の実績を積む練習が求められます |
| 日常点検 | 点検の項目は「無人航空機の飛行日誌の取扱要領」に基づきます |
この「10時間」と「監督者」の組み合わせが、新規に人を入れて全国包括の名簿に載せる際のボトルネックになります。操縦者を1人増やすたびに、監督できる人の時間が10時間分拘束されるという構造です。年間の受注計画から必要な操縦者数を逆算し、そこから練習時間と監督者の稼働を見積もっておかないと、更新のたびに名簿を追加できず現場が回らなくなります。
標準マニュアル01にも同趣旨の規定があります(第2章(8))。省略できる号数だけが異なり、01は「(1)、(2)及び(4)から(6)」、02は「(1)、(2)、(4)及び(5)」です。01のほうが練習項目が多いぶん、省略される範囲も広くなっています。ただしどちらも条件は同じで、「飛行にあたって必要な限定解除を受けた」技能証明であることと、知識及び能力が適切に確保されていることの2つを満たす必要があります。技能証明を持っているだけでは足りません。
全国包括を取るかどうかの設計
ここまでを踏まえると、全国包括は「取れるなら取ったほうがよいもの」ではありません。申請の頻度を下げる代わりに、日々の運用を標準マニュアル02の条件に縛るという取引です。判断は次の順で行います。
実務でよくある落ち着き方は、2階建てです。日常の反復業務(DID上空の空撮、夜間点検など)は標準マニュアル02で全国包括を取り、空港周辺やイベント上空の案件が入ったらその都度、場所を特定した申請を別に立てる。併用ができない以上、この分離は必然です。「全国包括を持っているから何でも飛べる」ではなく、「全国包括はベースロードで、上物は都度」という理解が正確です。
そして上物のほうは、飛行開始予定日の10開庁日前までという期限が案件ごとに走ります。国土交通省は3〜4週間程度の余裕を推奨しているため、受注の段階でスケジュールを逆算する必要があります。許可と承認の切り分けそのものはドローンの飛行許可・承認申請 完全ガイドで、飛行のつど発生する通報義務は飛行計画の通報:いつ、何を、どこまでで整理しています。申請作業を外に出す場合の費用が何に対する対価かはドローン申請の費用相場は何に対する対価かをご覧ください。
よくある質問
- 国土交通省|無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領(カテゴリーⅡ飛行)令和8年9月29日最終改正(PDF)
- 国土交通省|航空局標準マニュアル01(PDF)
- 国土交通省|航空局標準マニュアル02(PDF)
- 国土交通省|標準マニュアル01(インフラ点検)(PDF)
- 国土交通省|標準マニュアル02(インフラ点検)(PDF)
- 国土交通省|標準マニュアル(空中散布)(PDF)
- 国土交通省|標準マニュアル(研究開発)(PDF)
- 国土交通省|標準マニュアル(レベル3.5飛行・機上カメラで立入管理措置)(PDF)
- 国土交通省|無人航空機の飛行許可・承認手続
- 国土交通省|審査要領(カテゴリーⅡ飛行)改正に関する説明会資料 令和7年11月(PDF)
- 国土交通省|無人航空機の飛行の安全に関する教則 第5版(PDF)
- e-Gov法令検索|航空法施行規則(昭和二十七年運輸省令第五十六号)
- e-Gov法令検索|航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)