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インフラ点検でドローンを使うのに必要な許可・承認

公開 2026-09-05 更新 2026-09-05 読了 約15分

橋梁・トンネル・煙突・鉄塔・プラント設備・屋根や外壁。点検でドローンを構造物に寄せる以上、ほぼ確実に「人又は物件から30m未満の飛行」に当たります(航空法第132条の86第2項第3号)。ここが点検業務の中核であり、まず押さえるべき一点です。 その上で、高所の構造物では150m以上の空域が問題になり得ますが、地上又は水上の物件から30m以内の空域はこの規制から除かれます。鉄塔や煙突の直近は、この除外に当たり得ます。 逆に、トンネル内部のような屋内では航空法の各規制が適用されません(解釈通達)。点検事業者にとって、この線引きの影響はきわめて大きいものです。 この記事は、点検業務で実際に踏む特定飛行を洗い出し、どこまでが許可・承認の対象で、どこからが対象外かを条文単位で整理します。専用の飛行マニュアルについてはインフラ点検専用の標準マニュアルがある。一般版との違いで扱います。

よく見る説明と、公式の記載
この分野は制度改正が続いており、古い説明や条文上の裏付けがない説明が広く流通しています。この記事で扱う範囲について、実際の一次ソースの記載と突き合わせます。
よく見る説明トンネルの中や囲われた空間でも航空法の許可が要る。
公式にはこう屋内の飛行に航空法の各規制は適用されません。解釈通達はトンネル内部やネット等で囲われた空間も屋内とみなすとしています。
出典 無人航空機に係る規制の運用における解釈について 9
よく見る説明自社の敷地内での点検ならDIDの許可は要らない。
公式にはこう解釈通達は「人口集中地区内の私有地内における飛行であっても…人口集中地区内である限り、飛行の禁止空域に該当する」としています。例外は、2026年7月1日から対象外になった用途地域「工業専用地域」の区域です(国土交通省告示第435号)。
出典 同通達 2(1)
よく見る説明30mの距離は、現場にいる作業員に対しても保つ必要がある。
公式にはこう30mの相手は第三者です。同通達は当該条項を「第三者から30mの距離を保つこと」と言い換えています。
出典 同通達 2(2)

点検業務の中核は「人又は物件から30m未満」

ドローンを使った点検は、突き詰めれば対象物に近づいて撮る作業です。橋梁の桁下、トンネル坑口、煙突の外周、鉄塔の碍子まわり、プラントのフレアスタックや配管ラック、建物の屋根や外壁——いずれも、意味のある画を撮るには数メートルから十数メートルまで寄ることになります。

ここで効いてくるのが、航空法第132条の86第2項第3号です。無人航空機を飛行させる方法として「地上又は水上の人又は物件との間に国土交通省令で定める距離を保って飛行させること」が定められており、その距離が航空法施行規則第236条の79で30mと定められています。この距離を保てない飛行は国土交通大臣の承認が必要です(同条第3項)。

近接点検は、この30mを保てないことが前提の作業です。 「特定飛行に当たるかもしれない」ではなく、当たるところから設計を始めるのが点検業務です。DIDでもなく、夜間でもなく、目視外でもない、真昼の山間部にある橋梁であっても、桁裏に寄った瞬間に30m未満の承認が必要な飛行になります。逆に言えば、点検を業務にする以上、この承認は常設のインフラとして持っておくものと考えるほうが実態に合います。

審査要領では、この飛行は第5章の5-5「地上又は水上の人又は物件との間に30mの距離を保てない飛行」という節で扱われます。審査要領の節番号は全角で書かれているため、原本のPDFを半角の「5-5」で検索してもヒットしません。原本に当たる際の実務的な注意点です。

30mの「人」は第三者に限る。自社の作業員は含まない

ここからが、点検事業者にとって最も効く解釈です。国土交通省の解釈通達(無人航空機に係る規制の運用における解釈について)は、この30mの「人」は第三者に限るとしています。つまり操縦者・補助者をはじめとする自社の作業員は、この「人」に当たりません。同様に「物件」も第三者の物件を指すものとされています。

点検現場に置き換えると、次のような読み方になります。

現場の状況30m未満の承認との関係
操縦者・補助者・点検班のメンバーが機体の近くにいる この人たちは第三者に当たらないため、この人たちとの距離だけを理由に承認が必要になるものではないと読めます
発注者が所有する橋梁・鉄塔・プラント設備に寄る 解釈通達は、飛行に直接的又は間接的に関与している者が所有・管理する物件を30mの対象から除いています。発注者が間接関与者に当たるかは同通達6.(1)の要件(飛行目的の共通認識、操縦者からの指示と安全上の注意、関与を自ら決定できること)次第で、一律には決まりません。要件を満たすと言い切れない場合は、30m未満の承認を取る前提で設計するのが安全です(2026年9月13日訂正)
自社が所有する設備を自社で点検する その設備自体は第三者の物件に当たらないと読めますが、隣接する建物・電線・道路上の車両など周囲に第三者の物件があれば該当し得ます
現場に立ち入った発注者側の立会人・通行人がいる 自社の作業員ではないため、第三者として扱う前提で設計するのが安全です
この解釈は、承認を不要にする魔法ではありません。 点検の対象物そのものが第三者の所有物である案件が大半である以上、結論として30m未満の承認が要る場面は減りません。この解釈が効くのは、飛行計画を立てるときに「誰との距離を管理対象として数えるのか」を明確にできる点です。自社の補助者が機体の直下に立つことを前提とした立入管理措置と、第三者を近づけないための立入管理措置は、設計が別物になります。

150m以上と、そこから除かれる空域

高所の構造物を点検する場合、地表又は水面から150m以上の高さの空域が問題になります。これは飛行の「方法」ではなく飛行禁止「空域」の側の規制で、航空法第132条の85第1項第1号と施行規則第236条の71第1項第5号が根拠です。承認ではなく許可の対象であり、申請先も空港事務所長になります。

ところが、この第5号にはきわめて重要な括弧書きがあります。

施行規則第236条の71第1項第5号は、150m以上の空域から「地上又は水上の物件から30m以内の空域」を除くと定めています。

つまり、高い構造物の直近にへばりつくように飛ぶ限りは、150m以上の空域の規制から外れ得るということです。大型の煙突、集合煙突、高層の鉄塔、風力発電設備の支柱、超高層建築物の外壁——これらの点検で、構造物から30m以内を保ったまま高度150mを超えて上昇していく飛行は、この除外に当たり得ます。教則(第5版)3.1.2(2)3)bも煙突や鉄塔などの高層の構造物についてこの除外を挙げたうえで、「ただし、当該構造物の関係者による飛行を除き、第三者又は第三者の物件から30メートル以内の飛行に該当することから、当該飛行の方法に関する手続き等は必要となる」としており、外れるのは空域(許可)の側だけです(2026年9月27日訂正)。

ただし、これは「150m以上を自由に飛べる」という話ではありません。 除外されるのは物件から30m以内の空域だけです。構造物から離れて空中に出た瞬間に、150m以上の空域として許可の対象に戻ります。点検対象の周囲を大きく回り込む飛行経路、離着陸地点から対象物頂部までの上昇経路、風に流されたときの復帰経路——これらが物件から30mを超えるなら、そこは規制対象の空域です。「点検箇所は除外に当たるが、そこへ行く経路は当たらない」という設計になっていないかを、飛行経路の全体で確認してください。

そしてこの除外は、前章の30m未満の承認と裏表の関係にあります。物件から30m以内に入るということは、30m未満の承認が要るということです。150m以上の許可を回避できても、30m未満の承認は残ります。この2つを同時に見る癖をつけておくと、経路設計の判断が速くなります。

屋内・トンネル内部には航空法の規制が適用されない

点検事業者にとって、影響がいちばん大きいのはここかもしれません。国土交通省の解釈通達は、屋内での飛行には航空法の無人航空機に関する各規制が適用されないとしています。そして、この「屋内」にはトンネル内部や、ネット等で囲われた空間も含まれるものとされています。

登録制度の側でも同じ整理になっており、100g以上の機体であっても屋内のみを飛行させる場合は登録の対象外とされています。

点検の場面航空法上の扱い実務上の設計
トンネル内部の覆工点検 屋内として扱われ、航空法の各規制は適用されないと解されます 許可・承認の対象外。ただし発注者・道路管理者の手続は別途必要
トンネル坑口周辺・前後の明かり区間 屋外。30m未満、場合によりDID上空・目視外に当たり得ます 屋内と屋外をまたぐ経路になっていないか確認する
プラントの建屋内・タンク内部 屋内として扱われ得ます 航空法よりも、労働安全衛生・防爆・立入管理の設計が主戦場
ネット等で囲われた訓練場・仮設空間 屋内とみなすものとされています 操縦練習・目視外飛行の練習場所として使える余地がある
屋外の橋梁桁下・箱桁の中 囲われた空間かどうかで判断が分かれ得ます 個別性が高い。屋内前提で組まず、屋外前提で許可承認を用意しておく
「屋内だから何もしなくてよい」ではありません。 航空法の規制が適用されないという意味であって、施設管理者の承諾、労働安全衛生上の措置、閉所での通信・GNSS途絶への備え、墜落時の設備損傷リスクといった論点はそのまま残ります。むしろ屋内点検は、航空法の負担が軽い代わりに現場側のリスク管理の比重が上がると考えるべき領域です。また、屋内と屋外の境界がどこかは現場ごとの判断になります。公式に「この構造物は屋内である」と類型で示された一覧は確認できていません。迷う形状の現場では、屋外前提で許可・承認を用意しておくほうが安全側に倒せます。

DID上空・目視外・夜間に当たる場面

30mと150mが点検固有の論点だとすれば、残る3つは案件の立地と時間帯で決まる論点です。

DID上空(人口集中地区の上空)

航空法第132条の85第1項第2号、施行規則第236条の72。市街地の橋梁、都市部のビル外壁、市街地に立つ煙突や鉄塔、街なかのプラント——点検対象がインフラである以上、人が住んでいる場所の近くにあるのは当然で、都市部の案件はほぼDIDに当たると想定して設計するのが現実的です。ただし2026年7月1日から、用途地域が「工業専用地域」の区域はDIDの許可の対象外になりました(国土交通省告示第435号)。国土交通省は「工業専用地域を飛行する場合は、人口集中地区(DID)に該当する場所であっても『人又は家屋の密集している地域』の飛行許可は不要」と説明しています(解説資料)。臨海部のコンビナートや工場地帯のプラント点検では、まず用途地域を確認する価値があります。対象は工業専用地域だけで、工業地域・準工業地域は含まれず、該当するかは自治体に確認するよう案内されています。また、除かれるのはDIDの許可だけで、30m未満・目視外・夜間の承認の要否は変わりません。(2026年9月13日追記)詳しくは工業専用地域とDIDの記事で整理しています。さらに同通達は「人口集中地区内の私有地内における飛行であっても…人口集中地区内である限り、飛行の禁止空域に該当する」としており、自社の敷地内での点検であってもDIDならDIDの許可が必要です。

目視外飛行

航空法第132条の86第2項第2号。解釈通達は、ここでいう「目視」は操縦者本人の肉眼に限り、補助者による目視やモニター・双眼鏡による監視は該当しないとしています。点検業務では、これがきわめて頻繁に問題になります。橋梁の桁裏に機体が入れば肉眼では見えません。煙突や建物の裏側に回り込めば見えません。FPVモニターを見ながらの飛行は、それ自体が目視外飛行です。補助者が肉眼で機体を追っていても、操縦者本人が見ていなければ目視外飛行です(解釈通達は「補助者による目視は該当せず」としています)。操縦者本人が自分の目で機体を常時見られる位置から飛ばせるかどうかが、承認の要否を分けます。

夜間飛行

航空法第132条の86第2項第1号。日出から日没までの間以外の飛行です。点検で夜間が絡むのは、供用中の道路・鉄道の夜間規制帯に合わせる場合、稼働を止められないプラントの停止時間帯に合わせる場合などです。作業時間帯を発注者側の都合で決められる案件ほど、夜間の承認を先に押さえておく必要があります。

空港等の周辺

航空法第132条の85第1項第1号。空港周辺の進入表面・転移表面・水平表面等の上空です。滑走路周辺の照明施設、空港連絡橋、空港に隣接する工業地帯の設備など、点検対象が空港の制限表面にかかる案件では、この許可が必要になります。後述するとおり、この飛行は許可・承認を不要にできない類型であり、また場所を特定しない申請では扱えないため、案件ごとの個別申請になります。

緊急用務空域は、許可があっても飛行できません。 災害・事故の発生時、捜索救助等の緊急用務を行う航空機の安全確保のため、国土交通大臣が緊急用務空域を指定することがあります。この空域は、空港等周辺・150m以上・DID上空の許可を持っていても飛行できません。さらに施行規則第236条の71第4項は、飛行を開始する前に、飛行させる空域が緊急用務空域に該当するか否かを確認する義務を課しています。災害直後の緊急点検は、この確認が最も必要になる場面です。出動手順のチェックリストに組み込んでください。

点検で当たる特定飛行の一覧

ここまでを1枚に整理します。特定飛行は「空域」6類型と「方法」6類型に分かれ、空域は許可、方法は承認の対象です。

類型根拠条文インフラ点検・プラント保守での当たり方頻度
人又は物件から
30m未満
(承認)
法第132条の86
第2項第3号
規則第236条の79
近接点検の本体。橋梁・トンネル坑口・煙突・鉄塔・プラント設備・屋根外壁のいずれでも当たります ほぼ常時
目視外飛行
(承認)
法第132条の86
第2項第2号
桁裏・構造物の裏側・煙突内壁など。モニター監視は目視に当たりません 高い
DID上空
(許可)
法第132条の85
第1項第2号
規則第236条の72
都市部のインフラ。私有地内でもDIDならDID。ただし工業専用地域は2026年7月1日から対象外 高い(都市部)
夜間飛行
(承認)
法第132条の86
第2項第1号
夜間規制帯の道路・鉄道、プラントの停止時間帯 中
150m以上
(許可)
法第132条の85
第1項第1号
規則第236条の71
第1項第5号
高所構造物。ただし地上又は水上の物件から30m以内の空域は除かれます 中
空港等周辺
(許可)
法第132条の85
第1項第1号
規則第236条の71
第1項第1〜3号
空港の制限表面にかかる設備の点検。場所を特定した申請が必要 低(該当時は必須)
緊急用務空域
(飛行不可)
規則第236条の71
第1項第4号・第4項
許可があっても飛行できません。飛行開始前の該当性確認が義務です 災害時
催し場所上空
危険物輸送
物件投下
法第132条の86
第2項第4〜6号
通常の点検業務では想定されにくい類型。ただし該当すると使える飛行マニュアルが変わります 低

最後の行は軽く見えますが、実務上の意味は小さくありません。インフラ点検専用の標準マニュアルには、催し・危険物・物件投下が含まれていないためです。詳細はインフラ点検専用の標準マニュアルがある。一般版との違いで扱います。許可と承認の切り分けそのものはドローンの飛行許可・承認申請 完全ガイドをご覧ください。

許可・承認を不要にできるか。5つの条件

点検業務は反復性が高く、申請の手間が積み上がります。そこで検討したくなるのが、カテゴリーⅡ飛行の一部について許可・承認を不要にできる制度です。ただし条件は5つあり、点検業務では成立する案件と成立しない案件がはっきり分かれます。

用語について:カテゴリーⅡ飛行は、国土交通省の「無人航空機の飛行の安全に関する教則」(第5版)において、リスクの高いカテゴリーⅡA飛行(空港周辺/高度150m以上/催し場所上空/危険物輸送/物件投下/最大離陸重量25kg以上)と、それ以外のカテゴリーⅡB飛行に区分されています。この区分は教則(第5版)3.1.1(2)3)b で定義された区分であり、航空法の条文や審査要領には現れません。
飛行がDID上空/夜間/目視外/人又は物件から30m未満のいずれかに収まっているか(空港等周辺・150m以上・催し場所上空・危険物輸送・物件投下は対象外)
機体の総重量が25kg未満か(施行規則第236条の73)
立入管理措置を講じるか(施行規則第236条の70。補助者の配置、立入りを制限する区画の設定その他の適切な措置)
技能証明を受けた者(二等以上)が機体認証を受けた無人航空機(第二種以上)を飛行させるか
飛行マニュアルの作成等、安全確保に必要な措置を講じるか(施行規則第236条の75)
すべて満たす → 許可・承認を不要にできます。ただし夜間・目視外を含むなら、技能証明の限定変更が別途必要です
1つでも欠ける → 通常どおり許可・承認の申請へ

点検業務に当てはめると、次のように見えます。

条件点検業務での成立しやすさ
①飛行の類型 30m未満・目視外・DID・夜間だけで完結する案件なら成立します。150m以上や空港等周辺が入ると、その時点で不成立です
②25kg未満 一般的な点検機であれば満たしますが、大型のセンサーや打音・接触機構を積む機体は要確認です
③立入管理措置 点検現場は成立しやすい条件です。もともと規制帯や施工エリアを確保している案件が多く、看板・コーンによる表示や補助者配置も現場の常識と噛み合います。解釈通達は落下分散範囲も考慮して区画を設定するよう求めています
④技能証明+機体認証 ここが最大のボトルネックです。操縦者側の二等技能証明は計画的に取得できますが、機体側の機体認証を受けた機体を用意する必要があります。型式認証を取得している機体の一覧は国土交通省が公表しており、令和8年6月19日現在で第一種が1型式、第二種が第1号から第13号までです
⑤飛行マニュアル等 実質的には④の付随条件です。作成自体は難しくありませんが、運用実態と乖離しない内容にする必要があります
点検業務では「④が用意できるか」で結論が決まります。 技能証明と機体認証の両方が揃わない限り、この制度は使えません。そして両方揃っても、150m以上や空港等周辺を含む案件では従来どおり申請が必要です。現時点で多くの点検事業者にとって現実的なのは、包括申請で許可・承認を先に取っておく設計です。反復して飛行する場合や複数の場所で飛行する場合の包括申請については包括申請とは:個別申請との違いと使い分けを、場所を特定しない申請の限界については全国包括は取れるか。標準マニュアル02の使い方をご覧ください。
係留飛行の特例を点検で使えるかは、公式の説明だけでは判断しきれません。 施行規則第236条の76および第236条の82第1号(国土交通省の解釈通達では「第1項第1号」と表記)は、十分な強度を有する紐等(長さ30m以下)で係留し、その範囲内に地上・水上の物件が存せず、立入管理措置を講じる場合に、DID上空の許可、夜間・目視外・30m未満・物件投下の承認を不要とします。条文上は「範囲内に物件が存しない」ことが要件です。一方で解釈通達4.(1)は、「物件等に沿って配置する主索やガイドレール等と、無人航空機を繋ぐ連結索により係留される場合」を「係留と認められる」としており、構造物に沿って飛ばす形の係留を想定した記載があります。この記載と「範囲内に物件が存しない」要件との関係は、公式には説明されていません。近接点検で係留の特例を使う場合は、事前に国土交通省へ確認するのが確実です。(2026年9月15日訂正)

施設管理者の同意は、法令とは別のレイヤー

ここまで航空法の話をしてきましたが、点検業務で実際に飛べるかどうかを最後に決めるのは、多くの場合施設管理者の同意です。これは航空法の許可・承認とはまったく別の層にあります。

レイヤー誰が判断するか点検業務での位置づけ
①航空法の許可・承認 国土交通大臣(地方航空局長・空港事務所長) 本記事で扱った層。これが通っても、飛べるとは限りません
②施設管理者の同意 道路管理者、鉄道事業者、電力・ガス事業者、自治体、施設のオーナー、プラントの保安担当 等 実務上のクリティカルパス。ここが最も時間を食います
③土地・空間の権原 土地所有者、隣接地の所有者 離着陸地点の確保、飛行経路が隣地上空にかかる場合の調整
④その他の法令・条例 各所管庁・自治体 施設の種類ごとに個別に確認が必要な層

この構造を押さえておくと、案件のスケジュール設計が変わります。航空法の許可・承認は、新規なら飛行開始予定日の10開庁日前までに申請することとされ、国土交通省は不備による追加確認を見込んで3〜4週間程度の余裕を推奨しています。一方、施設管理者側の手続は、その組織の内部規程や会議体のサイクルに支配されます。どちらが長いかは案件ごとに違いますが、両方を並行で走らせないと現場日程に間に合いません。

受注段階でやっておく価値があるのは、次の切り分けです。①その飛行に航空法上どの許可・承認が要るか。②すでに持っている包括申請の範囲で足りるか、個別申請が要るか。③施設管理者側の手続に何日かかるか。②で「足りない」と分かるのが現場日程の直前だと、まず間に合いません。

飛行のたびに発生する義務

許可・承認は入口にすぎません。特定飛行を行う以上、飛行のたびに次の義務が発生します。点検業務は反復回数が多いぶん、ここの運用設計が事故的な失念を防ぐ鍵になります。

義務根拠条文内容
飛行計画の通報 法第132条の88第1項
規則第236条の83
特定飛行を行う場合はあらかじめ通報が必要。通報は電磁的方法によるものとされ、実務上はDIPSの飛行計画通報機能を使います。立入管理措置の有無及びその内容や保険契約の有無及び内容も通報事項です
飛行日誌の備付け 法第132条の89第1項
規則第236条の84
特定飛行を行う場合は飛行日誌を備える義務。飛行記録・日常点検記録・点検整備記録の3つで構成され、機体毎に備えます
緊急用務空域の確認 規則第236条の71第4項 飛行を開始する前に、該当するか否かを確認する義務
事故の報告 法第132条の90 人の死傷・物件の損壊・航空機との衝突接触。「物件の損壊」は第三者の所有物を損傷させた場合の全てが対象とされ、瓦のひび割れ等の軽微なものも含まれます
重大インシデントの報告 法第132条の91
規則第236条の86
航空機との衝突接触のおそれ、軽傷、制御が不能となった事態、飛行中の発火
点検業務で見落とされやすいのは「物件の損壊」の広さです。 事故等報告要領の運用上、「物件の損壊」は第三者の所有物(人工物)を損傷させた場合の全てとされ、軽微なものも含まれるとされています。点検対象は他人の構造物です。機体を構造物に接触させて塗膜を傷つけた、笠木を欠いた、というレベルの事象が報告対象になり得ます。「落として壊したら報告」ではなく、「対象物に当てたら報告の要否を検討する」という感度で運用手順を組んでください。飛行日誌の書き方と現場での回し方は飛行日誌の書き方。3つの記録と保管ルールで整理しています。

よくある質問

点検で必要になる許可・承認を1つだけ挙げるとしたら何ですか。
人又は物件から30m未満の飛行の承認(航空法第132条の86第2項第3号、距離は施行規則第236条の79)です。構造物に寄って撮る作業である以上、橋梁でも煙突でも鉄塔でもプラント設備でも、ここに当たります。逆に言えば、DIDでも夜間でも目視外でもない案件であっても、この承認だけは必要になります。
自社の作業員が機体の近くにいる場合も30m未満の承認が必要ですか。
解釈通達は、30mの「人」は第三者に限るとしています。操縦者・補助者をはじめとする自社の作業員は第三者に当たらないため、この人たちとの距離だけを理由に承認が必要になるものではないと読めます。ただし点検対象の構造物が第三者の物件であれば、そちらで該当します。実務では、対象物との距離のほうが先に効きます。
高さ180mの煙突を点検します。150m以上の許可は必要ですか。
飛行経路によります。施行規則第236条の71第1項第5号は、150m以上の空域から「地上又は水上の物件から30m以内の空域」を除くとしています。煙突の外壁から30m以内を保ったまま上昇し撮影する飛行は、この除外に当たり得ます。ただし煙突から離れる経路、回り込む経路、離着陸地点からの上昇経路が物件から30mを超えるなら、その部分は規制対象の空域です。経路全体で確認してください。なお、30m以内を飛ぶということは30m未満の承認が要るということでもあります。
トンネル内部の点検に許可・承認は要りますか。
解釈通達は、屋内での飛行には航空法の各規制が適用されないとしており、トンネル内部やネット等で囲われた空間も屋内とみなすものとされています。したがって、飛行がトンネル内部で完結するなら航空法上の許可・承認の対象外と解されます。ただし坑口周辺や前後の明かり区間は屋外です。また、施設管理者の承諾、労働安全衛生上の措置、閉所での通信途絶への備えといった論点は残ります。屋内・屋外の境界は現場ごとの判断になるため、迷う形状では屋外前提で用意しておくほうが安全側です。
モニターを見ながら桁裏を飛ばすのは目視内飛行ですか。
いいえ。解釈通達は、ここでいう「目視」は操縦者本人の肉眼に限り、モニターや双眼鏡による監視は該当しないとしています。FPVモニターを見ながらの飛行は目視外飛行に当たり、承認が必要です。補助者が肉眼で機体を見ていても、操縦者本人が見ていなければ目視外飛行です(解釈通達は「補助者による目視は該当せず」としています)。
国家資格を取れば申請をやめられますか。
条件付きで可能です。①飛行がDID上空・夜間・目視外・30m未満に収まる ②総重量25kg未満 ③立入管理措置を講じる ④技能証明を受けた者が機体認証を受けた無人航空機を飛行させる ⑤飛行マニュアルの作成等の措置を講じる、のすべてを満たす場合です。夜間・目視外を含むなら技能証明の限定変更も必要です。点検業務で最も難しいのは④の機体認証で、150m以上や空港等周辺を含む案件は、そもそもこの制度の対象外です。
許可・承認が下りれば、あとは施設に入って飛ばすだけですか。
いいえ。航空法の許可・承認は国に対する手続であり、その施設で飛ばしてよいかは施設管理者の同意という別のレイヤーで決まります。道路管理者、鉄道事業者、電力・ガス事業者、自治体、施設オーナー、プラントの保安担当など、相手は案件ごとに異なります。実務上はこちらのほうが時間を食うことが多いため、航空法の手続と並行で進める前提でスケジュールを組んでください。
機体を構造物に軽く当ててしまいました。報告は必要ですか。
事故等報告要領の運用上、「物件の損壊」は第三者の所有物(人工物)を損傷させた場合の全てとされ、瓦のひび割れ等の軽微なものも含まれるとされています。点検対象は他人の構造物ですから、塗膜の損傷程度であっても報告の要否を検討すべき事象です。報告はDIPSの事故等報告機能により速やかに行うことが原則とされています。
本記事は2026年9月27日時点の情報です。 無人航空機の制度は改正が続いており、解釈通達・審査要領も通達として短い手続で改正され得ます。とくに屋内・屋外の境界や、物件から30m以内の空域の当てはめは、現場の形状に依存する個別判断です。実際の申請・飛行の前に、必ず上記の一次ソースで最新の内容をご確認ください。

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