ドローンの保険。国が加入を求めている場面と、求めていない場面
ドローンの保険は義務なのか。この問いに一言で答えると、国土交通省の公式資料は「強制保険はなく、すべて任意保険である」と明言しています(教則 第5版 2.3.3)。自賠責保険のような、入らなければ飛ばせないという制度は存在しません。 ただし、それに続けて同じ段落が「一部の飛行にあたっては、第三者賠償責任保険に加入していることが求められる」と書いています。求められるのは総重量25kg以上の無人航空機を飛行させる場合とレベル3.5飛行の場合の2つです。前者は2025年10月1日から始まった比較的新しい取扱いです。 この記事は、「義務か、任意か」という二択で語られがちなこの論点について、場面ごとに、どの公式資料が何と書いているかを引いて線を引きます。金額の目安や商品の比較は、公式に基準が示されていないため扱いません。
教則 第5版 2.3.3 保険審査要領(カテゴリーⅢ飛行)2-2-1(8)教則 第5版 5.1.4(1)の表結論。加入そのものが求められるのは2つの場面
最初に全体像を示します。国土交通省の公式資料を横断して読むと、ドローンの保険に関する記述は3つのレベルに分かれています。混乱の原因は、この3つが同じ「保険」という言葉で語られてしまうことにあります。
総重量25kg以上の飛行(2025年10月1日から)/レベル3.5飛行。いずれもカテゴリーⅡ飛行の審査要領に「加入していること」と書かれています
カテゴリーⅡ・カテゴリーⅢを問わず、飛行の許可・承認の申請書に記載欄があります。未加入の場合は賠償能力の有無等を記載するという書き方で、様式にも未加入の選択肢が用意されています
教則は「万一の場合の金銭的負担が大きいので、保険に加入しておくとよい」「自機の使用実態に即した保険に加入することが推奨される」としています。カテゴリーⅢのリスク評価に基づく保険も「必要な保険に加入することが望ましい」です
この3段構えを押さえておくと、「義務か、任意か」という問いの立て方そのものが少し粗いことが分かります。航空法の条文には、保険の加入を義務づける規定も、未加入に対する罰則も置かれていません。加入が要件になっているのは、あくまで飛行の許可・承認を審査するための通達(審査要領)の中で、特定の飛行形態についてです。
総重量25kg以上。2025年10月1日から加入が要件になった
まず、最も明確に「加入していること」と書かれている場面です。無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領(カテゴリーⅡ飛行)の4-3-1(19)が、次のように定めています。
4-3-1は「次に掲げる事項を遵守しながら無人航空機を飛行させることができる体制を構築すること」という柱書のもとに(1)から(19)までを並べた条項で、飲酒・薬物の禁止、飛行前の確認、飛行日誌、事故等の報告といった基本的な遵守事項と同じ列に、この保険加入が置かれています。この(19)は、一連の遵守事項の最後に追加されたものです。
施行日は2025年10月1日
いつから、という点は原本の附則で確認できます。審査要領の附則(令和7年3月19日 国空無機第100036号)は「この審査要領は、令和7年3月24日から施行する。ただし、2-2-1及び4-3-1の改正規定は、令和7年10月1日から施行する。」としています。つまり、25kg以上の保険加入要件(4-3-1(19))と、後述する申請書の記載要件(2-2-1(8))は、2025年10月1日から効力を持ちました。
国土交通省はこの改正について、別途チラシを出しています。そこには「2025年10月1日(水)以降に新たに提出する飛行許可・承認申請から、総重量25kg以上の無人航空機を飛行させる場合は、「第三者賠償責任保険の加入」が必要です」と書かれ、注記として「「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領(カテゴリーⅡ飛行)」により、定められています」と明示されています(国土交通省 チラシ)。
同じ改正で、申請書の記載要件(2-2-1(8))にも一文が足されています。通常は「加入状況、保険会社名、商品名、補償金額」を記載し、未加入なら参考として賠償能力の有無等を書けばよいところ、総重量25kg以上の場合と、移動中の車両・列車・船舶の上空を通過する飛行を行う場合は、「十分な補償が可能となる第三者賠償責任保険の内容を記載すること」とされました。未加入という選択肢が、この2つの場面については想定されていない書き方になっています。
レベル3.5。保険は制度の入場券として置かれている
もうひとつがレベル3.5飛行です。こちらは25kg以上のように後から足されたものではなく、制度が新設された当初から、保険の加入が要件の一部として組み込まれています。
教則第5版は、レベル3.5飛行の成り立ちを次のように説明しています。「2023年12月に、デジタル技術の活用(機上カメラ)、無人航空機操縦者技能証明の保有及び保険への加入を条件として、レベル3飛行で従来求められていた立入管理措置のうち、補助者の配置や看板の設置等を機上カメラによる確認に代替し、移動中の車両等の上空の一時的な横断を伴う飛行が可能となる『レベル3.5飛行』が新設された」。そして実施に求められる3要件の3つ目として、「移動中の車両等との接触や交通障害等の不測の事態に備え、十分な補償が可能な第三者賠償責任保険に加入していること」を挙げています。
審査要領の側では、この要件は意外な場所に置かれています。5-4(目視外飛行)の(3)c)カ)(ⅲ)、つまり目視外飛行の追加基準の中の、立入管理区画に関する選択肢のひとつとしてです。原文は次のとおりです。
柱書の冒頭と、要件の列挙の中と、同じ条項の中で2回、保険への加入が書かれています。補助者や看板といった物理的な立入管理措置を機上カメラで代替することを認める制度である以上、代替によって残るリスクを金銭的に引き受ける手当てとして保険が置かれているという構造が読み取れます。前述のチラシも、注記で「レベル3.5飛行を実施する場合も従前のとおり第三者賠償責任保険の加入が必須です」として、25kg以上の改正とは別系統の話であることを示しています。
レベル3.5がカテゴリーの区分とどう対応するのかはレベル1〜4とレベル3.5。カテゴリーの区分と一致しない理由で、物流・配送での使い方は物流・配送でドローンを使うのに必要な許可・承認。レベル3.5とカテゴリーⅢで扱っています。
カテゴリーⅢ。「加入していること」とは書かれていない
ここが、この記事で最も注意深く書くべき箇所です。第三者上空を飛ぶカテゴリーⅢ飛行こそ保険が必須だろう——直感的にはそう思えますし、そう書かれた説明も見かけます。しかし審査要領(カテゴリーⅢ飛行)の2-2-1(8)その他参考となる事項の原文は、次のとおりです。
これは加入状況を申告させる規定であって、加入そのものを一律に義務づける書き方ではありません。実際、カテゴリーⅢ飛行の申請様式にも「☐加入している(☐対人 ☐対物)」と並んで「☐加入していない → 賠償能力 ☐有 内容( )☐無」という選択肢が用意されています。制度の側が、未加入という回答があり得ることを前提に設計されています。
一方で、教則第5版はカテゴリーⅢについてこう書いています。「飛行の許可・承認の審査において、無人航空機を飛行させる者が適切な保険に加入するなど賠償能力を有することの確認を行うこととしている」(5.1.3(2)、同旨が3.1.2(4)2))。さらにリスク評価との関係では、「その飛行の形態に応じたリスク評価を行い、その結果に基づき、必要な保険に加入することが望ましい」(5.1.4(3))としています。
それ以外のカテゴリーⅡ飛行は「参考として」の扱い
25kg未満の機体で、レベル3.5にも当たらない——つまり大多数の飛行では、どうなっているか。カテゴリーⅡ飛行の審査要領2-2-1(8)は次のように書きます。
カテゴリーⅢの条文と読み比べると、違いは「参考として」の4文字だけです。カテゴリーⅢでは未加入時の賠償能力の情報が端的に「記載すること」とされているのに対し、カテゴリーⅡでは「参考として」記載することとされています。同じ制度を作っている側が、この2つを意識的に書き分けていると読むのが自然です。
なお、申請様式の保険欄そのものは、カテゴリーⅡ・カテゴリーⅢで同一の書式です。「加入している(対人/対物)/保険会社名/商品名/補償金額(対人)(対物)」または「加入していない → 賠償能力 有(内容)/無」を書く形で、書式の上では区別がありません。違いは、様式ではなく審査要領の本文にあります。許可・承認の申請そのものの流れはドローンの飛行許可・承認申請 完全ガイドで、2025年12月の審査要領改正の内容は2025年12月の審査要領改正で何が変わったかで扱っています。
飛行計画の通報事項に、保険の有無が入っている
許可・承認の申請とは別に、もうひとつ保険が顔を出す場面があります。飛行計画の通報です。
特定飛行を行うときは、あらかじめ飛行計画を国土交通大臣に通報しなければなりません(航空法第132条の88第1項)。その通報事項を定める航空法施行規則第236条の83第1項の第12号が、次のように定めています。
ここで重要なのは、条文が「有無及びその内容」と書いていることです。保険契約が無いという通報も、制度上は成り立ちます。実際、飛行計画の通報要領(令和8年3月31日最終改正)が定める入力項目は、「保険会社名/商品名/対人保険金額/対物保険金額/保険未加入の場合の賠償能力 等」となっており、システムの側に未加入の欄が用意されています。
場面ごとの一覧
ここまでを1枚に整理します。出典の欄に書かれている文言そのものが、その場面の性格を決めています。
| 場面 | 公式資料の文言 | 出典 | 性格 |
|---|---|---|---|
| 総重量25kg以上 (カテゴリーⅡ飛行) |
第三者賠償責任保険に加入していること | 審査要領(カテゴリーⅡ飛行) 4-3-1(19) 2025年10月1日施行 |
加入が要件 |
| レベル3.5飛行 | 第三者賠償責任保険に加入したうえで/十分な補償が可能な第三者賠償責任保険に加入していること | 同 5-4(3)c)カ)(ⅲ) 教則第5版 3.1.2(2)4)c |
加入が要件 |
| 移動中の車両・列車・船舶の上空を通過する飛行の申請 | 十分な補償が可能となる第三者賠償責任保険の内容を記載すること | 同 2-2-1(8) 2025年10月1日施行 |
記載(未加入を想定しない書き方) |
| カテゴリーⅢ飛行 | 保険の内容を記載すること/加入していない場合は賠償能力の有無等の情報を記載すること | 審査要領(カテゴリーⅢ飛行) 2-2-1(8) |
記載+賠償能力の確認 |
| 上記以外の カテゴリーⅡ飛行 |
保険の内容を記載すること/加入していない場合は参考として賠償能力の有無等の情報を記載すること | 審査要領(カテゴリーⅡ飛行) 2-2-1(8) |
記載(参考) |
| 特定飛行の 飛行計画の通報 |
損害賠償のための保険契約の有無及びその内容 | 施行規則第236条の83 第1項第12号 |
申告(未加入も通報可) |
| すべての飛行の 一般的な心得 |
強制保険はなく、すべて任意保険/保険に加入しておくとよい/自機の使用実態に即した保険に加入することが推奨される | 教則第5版 2.3.3 | 推奨 |
機体保険と賠償責任保険は別物
ここまでの話は、すべて第三者賠償責任保険についてのものです。ドローンの保険にはもうひとつ機体保険があり、この2つは目的がまったく違います。教則第5版5.1.4(1)の表が、次のように整理しています。
| 種類 | 教則が書いている特徴 | 制度上の位置づけ |
|---|---|---|
| 機体保険 | 機体やカメラ自体の損傷に対する保険 ※機体が見つからないと保険が適用されないケースがあるため注意すること ※荷物輸送においては、輸送物が保険対象に含まれるか確認すること |
審査要領・申請様式・飛行計画の通報のいずれにも登場しません。制度が要求しているのは機体保険ではありません |
| 損害賠償責任保険 (第三者賠償責任保険) |
無人航空機を運航したことによっておこる損害に対する保険(対物・対人) | この記事で扱ってきた要件・記載事項・通報事項は、すべてこちらを指しています |
教則の2つの注記は短いものですが、どちらも実務上の意味が重いものです。墜落した機体が回収できないケースは、山林や水面上の飛行では十分に起こり得ます。また、荷物を運ぶ飛行で運んでいる物そのものが補償の対象に含まれるかどうかは、契約の内容によって変わり得るという指摘です。
そして、この2つを揃えても賠償責任そのものが消えるわけではありません。人にけがをさせたり物を壊したりした場合に、民事・刑事・航空法のそれぞれでどのような責任が生じるかはドローンを落として人にけがをさせたときの責任。民事・刑事・航空法で扱っています。教則が「万一の場合に備え賠償能力を確保しておくことが望まれるが、その対応としては、損害賠償責任保険に加入しておくことが有効と考えられる」という書き方をしているとおり、制度が求めているのは賠償能力であって、保険はその手段のひとつという位置づけです。
補償金額の基準は、公式には示されていない
最後に、この記事で意図的に書かないことを述べておきます。いくらの補償額の保険に入ればよいのかという点です。
審査要領も教則もチラシも、一貫して「十分な補償が可能となる第三者賠償責任保険」という書き方をしており、具体的な金額の基準は示されていません。原本を全文検索しても、補償金額の下限や目安を示した記述は確認できませんでした。申請様式は「補償金額:(対人)(対物)」を記入させますが、いくら以上という条件は付されていません。
よくある質問
- e-Gov法令検索|航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)(第132条の88、第157条の10)
- e-Gov法令検索|航空法施行規則(昭和二十七年運輸省令第五十六号)(第236条の83)
- 国土交通省|無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領(カテゴリーⅡ飛行)令和8年9月29日最終改正(PDF)
- 国土交通省|無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領(カテゴリーⅢ飛行)令和5年2月7日制定(PDF)
- 国土交通省|無人航空機の飛行の安全に関する教則 第5版(PDF)
- 国土交通省|【R7.10.1~】総重量25kg以上の無人航空機を飛行させる場合は第三者賠償責任保険の加入が必要です(PDF)
- 国土交通省|無人航空機の飛行計画の通報要領 令和8年3月31日最終改正(PDF)
- 国土交通省|カテゴリーⅡ飛行(レベル3.5飛行)の許可・承認申請について(PDF)
- 国土交通省|無人航空機の飛行許可・承認手続