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農薬散布ドローンの特例。承認が不要になる条件

公開 2026-09-15 更新 2026-09-15 読了 約15分

ドローンによる農薬散布では、物件投下と、積む農薬によっては危険物の輸送の承認が問題になります。これに対して、2026年3月23日施行の省令改正で、航空法施行規則第236条の82第1項第2号という新しいルートができました。要件を満たせば、夜間・目視外・30m未満・危険物輸送・物件投下の承認が要らなくなります。 ただし、誰でも使えるわけではありません。国土交通省の通達は第一種か第二種の機体認証を受けた機体と、一等か二等の技能証明を要件にしています。飛べる場所も、関係者が所有・管理する農地や森林の、作物の上端から4m以下に限られます。 しかも外れるのは「飛行の方法」の承認だけで、DID上空の許可の扱い、飛行計画の通報、飛行日誌はそのまま残ります。この記事では、通達の原文と承認不要ルート専用の飛行マニュアルをもとに、条件を一つずつ整理します。

よく見る説明と、公式の記載
新しい制度なので、条件の一部だけが伝わりやすい状態です。この記事で扱う範囲について、国土交通省の通達の原文と突き合わせます。
よく見る説明農地での農薬散布なら、ドローンの承認は誰でも要らなくなった。
公式にはこう通達は機体について「第一種機体認証又は第二種機体認証を受けた機体」、操縦者について「一等無人航空機操縦士又は二等無人航空機操縦士の技能証明を有していること」を要件にしています。
出典 通達 3(2)・3(4)
よく見る説明この特例を使えば、DIDの中の田畑でも手続は要らない。
公式にはこうDID上空もあわせて飛ぶ場合は、「3項に掲げる要件に加えて、法第132条の85の規定に従って飛行させる必要がある」とされています。DIDの許可を不要にするには、別の条件(25kg未満、衝突時の危害軽減機能など)が加わります。
出典 通達 4
よく見る説明承認が要らないのだから、飛行計画の通報も飛行日誌も要らない。
公式にはこう夜間・目視外・30m未満・危険物輸送・物件投下などを行う場合は「特定飛行」に該当するため、飛行計画を通報しなければならないとされています。飛行日誌も備えて記載する必要があります。
出典 通達 5(1)

結論:外れるもの、残るもの

最初に全体をまとめます。根拠は航空法第132条の86第5項第1号です。この規定が外すのは第132条の86第2項から第4項まで、つまり「飛行の方法」の規制に限られます。飛行禁止空域を定める第132条の85(空港等周辺、150m以上、DID上空)は対象外です。

特定飛行の類型第236条の82第1項第2号で追加でかかる条件
危険物の輸送
(承認)
不要になる 運べるのは登録を受けた農薬と、肥料の品質の確保等に関する法律に定義する肥料に限られます
物件投下
(承認)
不要になる 「不用意に物件を投下する機構でない」ことを機体認証の審査で確認されていること。5回以上の物件投下の練習
人又は物件から30m未満
(承認)
不要になる 総重量25kg未満。プロペラガード等の危害軽減機能
夜間飛行
(承認)
不要になる 25kg未満・自動操縦。技能証明の昼間飛行の限定変更。機体の向きが分かる灯火
目視外飛行
(承認)
不要になる 25kg未満・自動操縦・補助者の配置が必須。技能証明の目視内飛行の限定変更
催し場所上空
(承認)
対象外 第2号は「催し場所の上空以外で飛ばす」ことが前提です
DID上空
(許可)
外れない 第132条の85に従います。通達4の条件を満たせば許可が不要になり、満たさなければ許可が必要です
空港等周辺
(許可)
外れない 第132条の85第2項により許可が必要です

「特例」と呼ばれますが、実際は要件の束です。機体、操縦者、場所と高さ、飛ばし方、立入管理措置とマニュアル。この5つがすべて揃ったときだけ、承認なしで飛べます。1つでも欠ければ、従来どおり承認が必要な飛行に戻ります。

150m以上の許可は、この制度では論点になりません。 第2号は高さを「作物の上端から4m以下」に限っているためです。空港等周辺の許可は航空法第132条の85第2項の問題として残ります。あわせて通達は、方法の要件として「ヘリコプターなどの離着陸が行われるなどの航行中の航空機に衝突する可能性があるような場所では飛行させないこと」も求めています。

いつから使えるか。3月23日と6月1日の違い

この制度の始まりは、日付を取り違えやすいところです。

日付出来事確認した資料
2026年3月23日 省令の施行(令和8年国土交通省令第16号)。第236条の82が、係留の1文だけの条文から、第1号(係留)と第2号(イ〜ル)の2号構成に変わりました e-Gov法令検索の改正履歴(施行日2026-03-23の版)
2026年3月23日 通達の制定・施行(国空無機第338898号)。附則は「この通達は、令和8年3月23日から施行する。」 通達PDF
2026年5月29日 承認不要ルート専用の飛行マニュアルの版の日付(「令和8年5月29日版」) 飛行マニュアルPDFの表紙
2026年6月1日 国土交通省の手続ページにお知らせを掲載。本文は「通達を過日制定公布したことに加え、適用される航空局飛行マニュアルを掲載しました」 無人航空機の飛行許可・承認手続ページ

6月1日はマニュアルの掲載を知らせた日で、制度が始まった日ではありません。一方で、通達は標準マニュアルを「原則として」使うよう求めています。そのマニュアルの版は5月29日です。3月23日から5月29日までの間に、どのマニュアルで運用すべきだったかについて、公式には明示されていません。いまから運用を始めるなら、最新版のマニュアルを使えば足ります。

条件1:機体認証を受けた機体

省令のイは「飛行の方法に応じ必要な機能及び性能を有するものとして国土交通大臣が定める基準に適合する無人航空機」とだけ書いています。この「基準」を具体化したのが通達3(2)です。

通達3(2):「第一種機体認証又は第二種機体認証を受けた機体であり、かつ、飛行の方法に応じて以下の要件を満たすことが、機体認証に係る審査の中で確認されていること。」
行う飛行機体認証の審査で確認されている必要があること
危険物輸送危険物の輸送に適した装備が備えられていること
物件投下不用意に物件を投下する機構でないこと
30m未満第三者や物件に接触したときの危害を軽減する機能(例:プロペラガード、衝撃を緩和する素材・カバー・パラシュート)
夜間機体の向きを視認できる灯火が装備されていること

農薬散布は物件投下を伴い、積む農薬が危険物に当たれば危険物輸送も伴います。国土交通省の申請用の標準マニュアル(空中散布)も、対象飛行に危険物と物件投下の両方を入れています。そのため、実務上は上の表の最初の2行を満たす機体を前提に考えるのが安全です。「機体認証を受けている」だけでなく、「散布に必要な点が審査で確認されている」ことまでが要件です。

参考として、国土交通省の型式認証一覧(令和8年6月19日現在)を見ます。飛行の方法の欄にe(危険物輸送)とf(物件投下)が載っている型式は、第二種型式認証の第8号〜第12号だけでした。いずれもヤマハ発動機株式会社が保有する、機体の種類がヘリコプター、重量区分25kg以上の型式です。同じ一覧のマルチローターには、eとfの記載がありません。

一覧の読み方には限界があります。 型式認証一覧の「飛行の方法」欄の記載が、通達の「機体認証に係る審査の中で確認されている」と同じ意味なのかは、公式には明示されていません。また、型式認証を受けていない機体でも、1機ごとに検査を受けて機体認証を取ることはできますが、そうした機体はこの一覧に載りません。実際に使う機体が要件に当たるかは、機体認証書と、交付された使用条件等指定書・無人航空機飛行規程で確認してください。型式認証と機体認証の違いは機体認証・型式認証とは。第一種と第二種の違い、一覧の読み方は型式認証を取得している機体の一覧と、その見方で整理しています。

条件2:技能証明と散布の練習

省令のハは「必要な知識及び能力として飛行の方法に応じ国土交通大臣が定めるもの」と書くだけです。これも通達3(4)で具体化されています。

場面操縦者に求められること(通達3(4))
すべての飛行 飛ばす機体の種類の限定を受けた一等または二等の技能証明。定期的な操縦練習による技量の維持(対面飛行、10m離れた地点での水平飛行と上昇・下降の組合せを5回連続、8の字飛行を5回連続)
総重量25kg以上の機体 技能証明に総重量の限定変更(解除)が行われていること
空中散布 訓練のために許可等を受けた場所か屋内で、5回以上の空中散布の練習をすること。練習では「実際の農薬ではなく危険物に該当しない水などを散布すること」
物件投下 訓練のために許可等を受けた場所か屋内で、5回以上の物件投下の練習をし、投下の前後で機体の姿勢を安定して制御できること
危険物輸送 関連法令等に基づいて、危険物を安全に取り扱えること
夜間/目視外 技能証明の昼間飛行の限定変更/目視内飛行の限定変更

練習で求められているのは、散布の前、最中、後で機体の重さが変わる中でも操作や自動操縦を安定させることと、操縦しながら散布を円滑にこなすことです。飛行マニュアルの3-1(19)も「操縦者は、空中散布のための操縦訓練を修了した者に限る」としています。練習の記録は、要件を満たしている根拠として残しておくのが実務上は安全です(記録の様式は公式には指定されていません)。

技能証明には有効期間があり、飛行中は技能証明書を携帯する義務もあります(航空法第157条の11第1号により、携帯しないで特定飛行を行うと10万円以下の罰金)。更新については技能証明の更新。有効期間3年と更新講習、申請は満了日の1か月前までで扱っています。

条件3:関係者の農地・森林で、4m以下

省令のニは、場所と高さを次のように決めています。

「無人航空機を飛行させる者その他の関係者が所有又は管理する土地であつて、現に農業の用に供されている農地又は現に林業の用に供されている森林(これらに隣接し、かつ、これらと一体となつて農林業の用に供されている農業用道路その他の土地を含む。)の区域内において、地表若しくは水面又は農作物(樹木及び農林産物を含む。)の上端から四メートル以下の高さの空域において飛行させること。」

「関係者」には作業の発注者が含まれる

通達3(5)は「関係者」を3種類に分けています。

  • 直接関与者:操縦者、いまは操縦していないが操縦する可能性のある者、補助者など
  • 間接関与者:飛行の目的について操縦者と共通の認識を持ち、操縦者から計画外の挙動への対応について明確な指示と安全上の注意を受け、関与するかを自ら決められる者
  • 作業の発注者:「農薬等の空中散布等に係る作業を委託している場合に、当該作業を発注している者(作業実施時に飛行場所にいない場合を含む。)」

このため、散布を請け負う事業者が、発注者の農地で散布する形も「関係者が所有又は管理する土地」に当たると読めます。一方で、発注者でも関係者でもない隣の農地は対象外です。飛ぶ範囲が隣地にかからないよう、ほ場の境界に沿った経路を組む必要があります。

「現に」使われている農地・森林と、一般の交通がない道

条文は「現に農業の用に供されている」「現に林業の用に供されている」と書いています。含まれる道は、通達によると「一般の交通の用に供しない農道、林道等」です。例として、土地改良法第2条の農業用道路のうち一般車両が通らず専ら農作業に使うもの、一般車両が通らず専ら林業の作業に使う林道が挙がっています。一般車両が通る道は含まれません。休耕中の農地などがこれに当たるかは、公式には明示されていません。

4mは「作物の上端から」

高さの基準は、地表・水面だけでなく農作物(樹木及び農林産物を含む。)の上端からです。果樹園や森林では、樹冠の上端から4m以下と読めます。なお、農林水産省のマルチローター向け安全ガイドラインは、メーカーが散布方法を定めていない場合の目安として「飛行高度は、作物上2m以下」を示しています。航空法の上限(4m)と、農薬を適正に使うための目安(2m)は別の基準です。

飛行経路の下に第三者の物件がないこと

省令のヌは「飛行経路下に地上又は水上の物件が存しない場合に飛行させること」を求めます。通達3(11)によると、この物件は第三者の物件(車両や工作物のうち、操縦者や関係者が所有・管理するもの以外)です。さらに通達3(9)⑫は、次の場所の付近で飛ばさないことを求めています。

  • 第三者の往来が多い場所、学校、病院、神社仏閣、観光施設など、不特定多数の人が集まる場所
  • 高速道路、交通量が多い一般道、鉄道
  • 高圧線、変電所、電波塔、無線施設など

「付近」が何mを指すかは、公式には数値で示されていません。

条件4:飛ばし方と、使う機能

省令内容通達・マニュアルによる具体化
ロ 夜間・目視外・30m未満を行うなら総重量25kg未満 通達3(3)。裏返すと、これらを行わない飛行(昼間・目視内・30m以上を保つ)なら25kg以上の機体も対象になり得ます
ホ 夜間・目視外を行うなら自動操縦 通達3(6)、マニュアル3-1(22)「自動操縦による飛行のみにより行う」
ヘ 危険物を運ぶなら、大臣が定める物件に限る 通達3(7):農薬取締法に基づく登録を受けている農薬(同法第3条第1項ただし書を除く)と、肥料の品質の確保等に関する法律に定義する肥料
ト 飛行範囲を制限する機能と、不具合時に安全を確保する機能を使って飛ばす 通達3(8):ジオフェンスとフェールセーフ(リターントゥホーム、ホバリング、自動着陸など)。これに類する機能として、障害物検知・自動操縦・強制落下(キルスイッチ)
チ 大臣が定める方法で飛ばす 通達3(9)の①〜㉒。主なものは下の一覧

通達3(9)が定める方法のうち、現場の段取りに直接かかわるものを抜き出します。

  • 第三者の上空で飛ばさない。第三者が飛行範囲に入ったら速やかに中止する
  • 飛行前に、気象・機体・飛行経路・散布範囲を確認し、飛ばす場所が緊急用務空域に指定されていないことを確認する
  • 5m/s以上の突風などで安全に飛ばせなくなったら即時に中止する(マニュアル3-1(5)は「風速5m/s以上の状態では飛行させない」)
  • 雨の場合や雨になりそうな場合、十分な視程がない雲や霧の中では飛ばさない
  • 近くで航空機を確認したら飛ばさない。飛行中なら着陸させるなどして回避する
  • 周辺のほ場で他のドローンが飛んでいたら、日時・経路・高度を相手と調整する
  • つり下げ・曳航はしない
  • 人や物件から30m以上離れた離着陸場所をできる限り選ぶ。散布範囲の近くで離着陸するときは、立入管理措置を講じて第三者との距離を十分にとる
  • 総重量25kg以上の機体を飛ばすなら、十分な補償ができる第三者賠償責任保険に入る

条件5:立入管理措置と飛行マニュアル

補助者を置くか、区画で代えるか

省令のルは立入管理措置を求めています。通達3(12)は、行う飛行ごとに措置の内容を分けています。

行う飛行立入管理措置
目視外飛行 補助者の配置が必須。立入管理区画の明示では代えられません。飛行前に、飛行ルートの下と散布範囲に第三者がいないことを確認し、双眼鏡等を持つ補助者のもとで飛ばします
夜間飛行・危険物輸送・物件投下 原則は補助者の配置。配置が難しい場合は、塀やフェンス、立入りを制限する看板やコーンなどで立入管理区画を明示し、第三者の立入りを確実に制限することで代えられます
上記以外 補助者の配置か、立入管理区画の明示のいずれか

補助者は、飛行経路と散布範囲の全体を見渡せる位置で、飛行・散布・気象の変化を監視し、第三者が入らないよう注意を呼びかけます。現地で周囲への影響を事前に確かめ、必要なら補助者を増やすことも求められています。立入管理措置の一般的な考え方は立入管理措置とは。現場で実際に何をするのかをご覧ください。

補助者なしで散布するときの区画の幅

目視内で、補助者を置かずに空中散布する場合は、さらに条件が加わります(通達3(12)③、マニュアル3-6)。飛行範囲の外側に、「位置誤差」+「落下距離」の幅で立入管理区画を設けます。メーカーが数値を保証していない場合は、マニュアル別添の値を使います(最大離陸重量25kg未満のマルチローターの数値です)。

別添の設定例(高度2m・飛行速度15km/h・風速3m/s以下)位置誤差落下距離区画の幅
例1 自動操縦機・どちらもメーカー保証あり1m(保証値)3m(保証値)4m
例2 自動操縦機・落下距離の保証なし1m(保証値)5m(プログラム制御)6m
例3 手動操縦機・保証なし0m(目視で確実に把握)11m(手動制御)11m

自動操縦でメーカーが位置誤差を保証していない場合、位置誤差は10mで計算します。手動操縦で機体の位置を目視で確実に把握できない場合は、補助者なしの空中散布はできません。人や車が近づく可能性があるなら、看板の設置、実施区域と周辺への事前周知、散布前や合間の見回りなどで注意を求めます。

飛行マニュアルは「原則として」標準版を使う

省令のリは、施行規則第236条の75第1項の措置、つまり安全に飛ばすための規程を作り、守ることを求めています。通達3(10)は、その中身を承認不要ルート専用の標準マニュアルのとおりとし、「原則として当該標準マニュアルを使用すること」としています。標準マニュアルを使うのが難しい場合に限り、所定の項目を書いた独自マニュアルを作ります。

申請用の「航空局標準マニュアル(空中散布)」とは別物です。 国土交通省の手続ページには、許可・承認の申請に使う「航空局標準マニュアル(空中散布)」が引き続き載っています。承認不要ルートで使うのは、飛行ルールページに載っている「航空法施行規則第236条の82第1項第2号の規定により飛行の方法に係る承認が不要な飛行」向けのマニュアル(令和8年5月29日版)です。名前が似ているので取り違えないでください。独自マニュアルが必要になる場面の考え方は独自の飛行マニュアルを作るべきときと作り方で整理しています。
散布する場所は、自社か発注者などの関係者が所有・管理する、現に使われている農地・森林(一般の交通がない農道・林道を含む)の中か
高さは地表・水面・作物の上端から4m以下か。催し場所の上空ではないか。飛行経路の下に第三者の物件はないか
機体は第一種か第二種の機体認証を受け、危険物輸送・物件投下(と、行う飛行に応じた項目)が審査で確認されているか
操縦者は機体の種類に合った一等か二等の技能証明を持ち、5回以上の散布練習と物件投下の練習を済ませているか。25kg以上・夜間・目視外なら、該当する限定変更を受けているか
夜間・目視外・30m未満を行うなら25kg未満か。夜間・目視外なら自動操縦か。ジオフェンスとフェールセーフを使うか
立入管理措置(目視外は補助者必須)と承認不要ルート用の標準マニュアルに沿った運用ができるか
すべて満たす → 飛行の方法の承認は不要。DID上空なら次章の条件を確認し、飛行計画の通報と飛行日誌へ進みます
1つでも欠ける → 承認(DIDなら許可も)の申請へ

DID上空・危険物輸送・物件投下との関係

DID上空:通達4の条件を満たせば許可が不要、満たさなければ許可が必要

田畑がDID(人口集中地区)の中にあることは珍しくありません。第236条の82第1項第2号は飛行の方法の規定なので、DID上空の扱いは航空法第132条の85で決まります。通達4は、次のすべてを満たせば、同条第3項の要件を満たし、DID上空の許可も不要になるとしています。

  1. 通達3項(承認不要ルート)の要件をすべて満たす
  2. 総重量25kg未満の機体
  3. 機体認証の審査で、第三者や物件に接触したときの危害を軽減する機能(プロペラガード等)が確認されている
  4. 原則として補助者を配置する(配置が難しい場合は立入管理区画の明示で代えられますが、3項で補助者が必須の飛行=目視外飛行では代えられません)
  5. 補助者が周囲に飛行を周知する(補助者を置かない場合を除く)

このうち1つでも満たさなければ、DID上空の許可が必要です。25kg以上の散布機でDID上空を飛ぶ場合も、許可が必要になります。なお、2026年7月1日から用途地域が「工業専用地域」の区域はDIDの許可の対象外になりましたが、農地の散布で問題になる場面は多くないはずです(詳しくは工業専用地域は、DIDの中でもDIDの飛行許可が要らなくなった)。

危険物輸送・物件投下:これまでとの違い

このルートの意味は、航空法第132条の86第3項と比べると分かります。第3項は、技能証明と機体認証があり、立入管理措置を講じて25kg未満の機体を飛ばす場合でも、第2項第4号から第6号まで(催し場所上空・危険物輸送・物件投下)によらない飛行には承認を求めています。つまり第2号ができる前は、技能証明と機体認証が揃っていても、危険物輸送と物件投下を伴う農薬散布には承認が必要だったと条文の構造から読めます。技能証明・機体認証で申請を不要にするルートの全体像はドローンの飛行許可・承認申請 完全ガイドをご覧ください。

第2号は、この2つを農地・森林の4m以下という限られた条件の中で承認不要にしました。さらに、25kg未満の条件がかかるのは夜間・目視外・30m未満を行う場合だけです(省令ロ)。そのため、昼間・目視内で、第三者や第三者の物件から30m以上を保てる散布であれば、25kg以上の機体でも対象になり得ます。この場合、技能証明には総重量の限定変更が必要で、第三者賠償責任保険への加入も求められます。

運べる危険物は「登録農薬」と「肥料」に限られます。 通達3(7)が承認なしで運べるとしているのは、農薬取締法に基づき登録を受けている農薬と、肥料の品質の確保等に関する法律に定義する肥料です。飛行マニュアルの対象には種子や融雪剤の散布も含まれていますが、これら以外の物件で危険物に当たるものを運ぶなら、承認が必要な飛行に戻ると読むのが条文に沿った理解です。個々の資材が危険物に当たるかは、施行規則第236条の80と関係告示で個別に確認してください。

係留の特例とは別のルート

第236条の82には、第1号として係留の特例もあります。ただ、第1号は「第2項第4号及び第5号に掲げる方法」による飛行、つまり危険物を輸送しない飛行が前提です。農薬を積む散布に係留の特例は使えません。農薬散布で承認を不要にできるのは、第2号のルートだけです。

条件を満たさないときは、従来どおり申請する

次のどれかに当たれば、第2号のルートは使えません。これまでどおり許可・承認を申請します。

  • 機体が機体認証を受けていない、または散布に必要な点が審査で確認されていない
  • 操縦者が一等・二等の技能証明を持っていない、または必要な限定変更がない
  • 散布場所が関係者の農地・森林ではない(公園、河川敷、関係のない他人の土地など)
  • 高さが作物の上端から4mを超える
  • 夜間・目視外・30m未満の飛行を25kg以上の機体で行う
  • 登録農薬・肥料以外の危険物を運ぶ

申請する場合は、申請用の「航空局標準マニュアル(空中散布)」を使えます。このマニュアルの対象飛行は、DID・夜間・目視外・30m・危険物・物件投下です。散布シーズンに繰り返し飛ぶなら、期間と場所をまとめて申請する包括申請が現実的です(包括申請とは。個別申請との違いと、使い分けの判断基準)。国土交通省は、申請を飛行開始予定日の10開庁日前までに出すよう求め、3〜4週間程度の余裕を推奨しています。

なお、農林水産省の情報ページによると、無人ヘリコプターによる空中散布には、登録代行機関が許可・承認を申請する仕組みがあります(平成27年12月3日付けの国土交通省航空局長・農林水産省消費・安全局長通知)。

承認が不要でも残る義務

承認が要らなくなっても、飛行そのものは特定飛行のままです。通達5(1)がそのことを明記しています。

義務根拠内容と罰則
飛行計画の通報 法第132条の88第1項
通達5(1)
あらかじめDIPSの飛行計画通報機能で通報します。周辺の他のドローンの飛行計画も同じシステムで確認します(マニュアル2-4(13))。通報せずに特定飛行を行うと30万円以下の罰金(法第157条の10第1項第10号)
飛行日誌 法第132条の89
通達5(1)
飛行記録・日常点検記録・点検整備記録を備え、記載します。備えない、記載しない、虚偽を記載すると10万円以下の罰金(法第157条の11第2号・第3号)
技能証明書の携帯 法第132条の54
マニュアル2-4(17)
携帯しないで特定飛行を行うと10万円以下の罰金(法第157条の11第1号)
使用の条件の遵守 法第132条の14第1項
マニュアル3-1(20)
機体認証の使用条件等指定書や飛行規程の条件を超えて特定飛行を行うと50万円以下の罰金(法第157条の9第3号)
事故・重大インシデントの報告 法第132条の90・第132条の91
通達3(9)㉑
飛行経路を管轄する官署へ、DIPSの事故等報告機能で速やかに報告します
要件を1つでも外したまま承認なしで飛ぶと、承認が必要な飛行を無承認で行ったことになり得ます。 航空法第157条の9は、第132条の86第2項第5号に違反した危険物の輸送(第15号)、第6号に違反した物件の投下(第16号)、第132条の86第3項違反の飛行(第17号)などを50万円以下の罰金の対象にしています。「承認不要ルートに乗っているつもり」で運用するなら、要件を満たしている根拠(機体認証書、技能証明と限定変更、練習の記録、ほ場の所有・管理関係、立入管理措置の内容)を飛行ごとに説明できる状態にしておいてください。飛行計画の通報はドローンの飛行計画の通報はいつ必要か、飛行日誌の付け方はドローンの飛行日誌の書き方。3種類の記録と、毎回の運用で整理しています。

農薬取締法の側で確認すること

航空法の承認が要らなくなっても、農薬を使うことについてのルールは別に残ります。通達3(9)⑲も、農薬取締法などの関係法令に従い、農林水産省の「農薬の空中散布に係る安全ガイドラインの制定について」(令和元年7月30日付け元消安第1388号)などの関連通知に留意して行うよう求めています。ここでは農林水産省の公表資料で確認できたことだけを挙げます。

項目農林水産省の資料の記載
使える農薬 「農薬取締法により、登録されていない農薬は使用できません。」登録農薬でも「使用基準以外の方法で使用してはいけません」。ドローンに適した農薬は、使用方法が「無人航空機による散布」「無人ヘリコプターによる散布」「無人航空機による滴下」「無人ヘリコプターによる滴下」とされているもの。散布機器を指定しない「散布」なども、使用方法・希釈倍率・使用量等を守れる範囲ならドローンで使えるとされています。検索は農薬登録情報提供システムで行えます
計画書 マルチローター向けガイドラインは、実施主体が実施場所・実施予定月日・作物名・散布農薬名・10a当たりの使用量または希釈倍数などを書いた計画書を作成するとしています。無人ヘリコプター向けのガイドラインには、計画書を実施月の前月末までに都道府県の農薬指導部局に届け出る定めと、実績報告書の提出の定めがあります
周辺への情報提供 実施区域や周辺に学校・病院などの公共施設、家屋、蜜蜂の巣箱、有機農業のほ場などがある場合、散布の日時・目的・使用農薬の種類・連絡先を十分な時間的余裕を持って知らせ、必要なら日時を調整するとしています
散布方法の目安 メーカーの取扱説明書などに散布方法がない場合、当面は「飛行高度は、作物上2m以下」「散布時の風速は、地上1.5mにおいて3m/s以下」
農薬事故の報告 ドリフトや流出などの農薬事故は、事故報告書を都道府県の農薬指導部局に提出します。第1報は直ちに、最終報は1か月以内。航空法の事故報告とは別の報告です
ガイドラインの位置づけと、ページの更新状況について。 このガイドラインは、農林水産省自身が「安全かつ適正な農薬使用を行うために参考とすることができる目安」と説明しているものです。実施する地域の都道府県の農薬指導部局の案内もあわせて確認してください。また、2026年9月15日時点で、農林水産省の「無人航空機による農薬等の空中散布に関する情報」ページには「航空法に基づき、事前に国土交通大臣へ許可・承認の申請を行うことが必要です。」との記載が残っており、第236条の82第1項第2号のルートには触れていません。航空法の手続については、所管する国土交通省の通達と手続ページを基準に判断するのが確実です。

よくある質問

国家資格(技能証明)を持っていれば、機体認証のないドローンでも承認なしで散布できますか。
できません。通達3(2)は、第一種または第二種の機体認証を受けた機体であり、しかも危険物輸送・物件投下など行う飛行に必要な点が機体認証の審査で確認されていることを要件にしています。技能証明と機体認証の両方が必要です。どちらかが欠けるなら、許可・承認を申請します。
散布を請け負う事業者が、依頼主の田んぼで散布する場合も対象になりますか。
通達3(5)は「関係者」に作業の発注者(作業当日に現場にいない場合を含む)を含めています。そのため、発注者が所有・管理し、現に農業に使われている農地であれば、場所の要件に当たると読めます。ただし、依頼主と関係のない隣接地に飛行範囲がかかると要件から外れます。その他の要件(機体認証、技能証明、4m以下、立入管理措置など)もすべて必要です。
市街地(DID)の中にある畑で散布する場合はどうなりますか。
第2号で外れるのは飛行の方法の承認だけで、DID上空は航空法第132条の85に従います。通達4によると、承認不要ルートの要件に加えて、25kg未満、機体認証の審査で危害軽減機能(プロペラガード等)が確認されていること、原則として補助者を配置すること、補助者による周囲への周知を満たせば、DID上空の許可も不要です。満たさなければDID上空の許可を申請します。
25kg以上の大型散布機でも使えますか。
条件によっては使えます。省令ロで25kg未満が必要になるのは、夜間・目視外・30m未満を行う場合です。昼間に目視内で飛ばし、第三者や第三者の物件から30m以上を保てる散布なら、25kg以上の機体も対象になり得ます。その場合、技能証明に総重量の限定変更が必要で、第三者賠償責任保険への加入も求められます。機体認証の要件は同じです。なお、25kg以上の機体でDID上空を飛ぶなら、DID上空の許可が必要です。
承認が要らないなら、DIPSでの手続は何もしなくてよいですか。
いいえ。飛行計画の通報は必要です。通達5(1)は、この通達を使って夜間・目視外・30m未満・危険物輸送・物件投下などを行う場合は特定飛行に当たるとし、航空法第132条の88第1項により飛行計画を通報しなければならないとしています。飛行日誌の備付けと記載も必要です。
この制度はいつから使えますか。6月1日からですか。
省令(令和8年国土交通省令第16号)と通達(国空無機第338898号)は、いずれも2026年3月23日に施行されています。6月1日は、国土交通省が手続ページで通達と飛行マニュアルの掲載を知らせた日です。マニュアルの版は令和8年5月29日版です。
果樹園で、木の上から散布する場合の「4m」はどこから測りますか。
省令ニは「地表若しくは水面又は農作物(樹木及び農林産物を含む。)の上端から四メートル以下」としています。樹木も農作物に含まれるので、樹冠の上端から4m以下と読めます。なお、農林水産省のマルチローター向け安全ガイドラインは、メーカーが散布方法を定めていない場合の目安として作物上2m以下を示しています。こちらは農薬を適正に使うための目安で、航空法の上限とは別の基準です。
補助者を置かずに一人で散布できますか。
目視内飛行なら、条件付きで可能です。通達3(12)③とマニュアル3-6により、飛行範囲の外側に「位置誤差+落下距離」の幅で立入管理区画を設け、人や車が近づく可能性があれば看板や事前周知などで注意を求めます。メーカーの保証値がない場合、別添の例では手動操縦で幅11m、自動操縦(位置誤差の保証1m)で幅6mです。目視外飛行では補助者の配置が必須で、DID上空もあわせて飛ぶ場合も原則として補助者が必要です。
農林水産省のページには「許可・承認の申請が必要」と書いてあります。どちらが正しいのですか。
2026年9月15日時点で、農林水産省のページにはその記載が残っています。一方、航空法を所管する国土交通省は、飛行ルールページで「通達…に定める要件を満たして行う農薬等の空中散布などの飛行については、飛行の承認が不要となります」としています。通達の要件をすべて満たす飛行は承認不要、1つでも満たさない飛行は従来どおり申請が必要、と読み分けるのが両者に矛盾しない理解です。
この記事の一次ソース
  1. e-Gov法令検索|航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)
  2. e-Gov法令検索|航空法施行規則(昭和二十七年運輸省令第五十六号)
  3. 国土交通省|航空法施行規則第236条の82第1項第2号の規定により飛行の方法に係る承認が不要な飛行の取扱い(令和8年3月23日制定 国空無機第338898号・PDF)
  4. 国土交通省|航空局標準マニュアル(航空法施行規則第236条の82第1項第2号の規定により飛行の方法に係る承認が不要な飛行)令和8年5月29日版(PDF)
  5. 国土交通省|無人航空機の飛行ルール(農薬等の空中散布に係る飛行の承認が不要となる場合について)
  6. 国土交通省|無人航空機の飛行許可・承認手続(2026.06.01のお知らせ、航空局標準マニュアル(空中散布))
  7. 国土交通省|航空局標準マニュアル(空中散布)申請用(PDF)
  8. 国土交通省|型式認証を取得している無人航空機一覧(令和8年6月19日現在・PDF)
  9. 国土交通省|無人航空機の飛行計画の通報要領(PDF)
  10. 国土交通省|無人航空機の飛行日誌の取扱要領(PDF)
  11. 農林水産省|無人航空機による農薬等の空中散布に関する情報
  12. 農林水産省|無人マルチローターによる農薬の空中散布に係る安全ガイドライン(令和5年3月30日最終改正・PDF)
  13. 農林水産省|無人ヘリコプターによる農薬の空中散布に係る安全ガイドライン(令和5年3月30日最終改正・PDF)
  14. 農林水産省|ドローンで使用可能な農薬
本記事は2026年9月15日時点の情報です。 第236条の82第1項第2号は2026年3月23日に施行されたばかりの制度で、通達と飛行マニュアルは短い手続で改正され得ます。本記事が引用した飛行マニュアルは令和8年5月29日版、型式認証一覧は令和8年6月19日現在のものです。機体が要件に当たるか、場所が「関係者が所有又は管理する土地」に当たるかといった当てはめは個別判断で、公式に類型が示されていない点は本文でその旨を記しています。農薬の使用に関しては、実施地域の都道府県の案内もあわせてご確認ください。実際に飛行する前に、必ず上記の一次ソースで最新の内容をご確認ください。

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