緊急用務空域。包括許可を持っていても飛べなくなる空域
飛行許可は、取った時点で空域が確定しています。緊急用務空域は、その後から国土交通大臣が指定する空域です。だから「許可を持っているのに飛べない」という、ほかの飛行禁止空域にはない事態が起きます。 国土交通省のQ&Aは、空港周辺・150m以上・DID上空の飛行許可(包括許可を含む)があっても緊急用務空域は飛行できないとしたうえで、「関係機関等から飛行中止の指示があるかないかによらず、当該空域での飛行を継続させた場合、航空法違反の対象となります」と書いています。誰にも止められなかったことは、理由になりません。 そして航空法施行規則第236条の71第4項は、飛行を開始する前に、その空域が緊急用務空域に該当するか否かの別を確認することを義務にしています。包括許可を持っていても、この確認は飛行のたびに残ります。 この記事は、なぜ許可が効かないのかを条文の構造から解き、確認の手順、飛行中に指定されたときの体制、100グラム未満の機体の扱い、罰則の条番号までを一次ソースで押さえます。
航空法施行規則 第236条の71/航空法 第132条の85緊急用務空域の設定に関するQ&A A.3(令和5年11月30日時点版)緊急用務空域Q&A A.1/教則第5版 3.1.2(2)1)bなぜ許可が効かないのか。条文の構造
結論を先に言うと、許可は「申請した空域」について出るものであり、緊急用務空域は申請の時点では存在していなかった空域だからです。ここを条文で追います。
飛行禁止空域の列挙は、法ではなく省令にある
航空法第132条の85第1項は、飛行禁止空域を2つの号で書いています。第1号は「無人航空機の飛行により航空機の航行の安全に影響を及ぼすおそれがあるものとして国土交通省令で定める空域」、第2号が人口集中地区(DID)の上空です。第1号の中身は施行規則第236条の71第1項に5つ並んでいて、その第4号が緊急用務空域です。
「国土交通省、防衛省、警察庁、都道府県警察又は地方公共団体の消防機関その他の関係機関の使用する航空機のうち捜索、救助その他の緊急用務を行う航空機の飛行の安全を確保する必要があるものとして国土交通大臣が指定する空域(以下「緊急用務空域」という。)」
ほかの4号(1号告示空域、進入表面等の上空、飛行場周辺、150m以上の高さ)は、告示や高さで決まっていて、平時から地図に落とせます。緊急用務空域だけが「国土交通大臣が指定する空域」という書き方になっていて、指定されるまで存在しません。この一語が、この空域の性質をすべて決めています。
許可の規定は第2項。空域を選んで申請するもの
許可は法第132条の85第2項です。「何人も、前項第一号の空域又は同項第二号の空域(…)においては、同項に規定する場合に該当し、かつ、国土交通大臣がその運航の管理が適切に行われるものと認めて許可した場合でなければ、無人航空機を飛行させてはならない」。
そして審査要領(カテゴリーⅡ飛行)2-2-1(3)(4)は、申請書に「該当する許可を求める空域を選択するとともに、選択した飛行禁止空域で無人航空機を飛行させる理由を記載すること」と定めています。許可は、選択した空域について出ます。DID上空の許可はDID上空の許可であって、後から指定された緊急用務空域の許可ではありません。
窓口そのものが違う
見落とされがちですが、申請先も別系統です。審査要領2-1(1)b)は、1号告示空域・進入表面等の上空・飛行場周辺・緊急用務空域・150m以上(=法第132条の85第1項第1号の空域)の許可申請を飛行を行おうとする場所を管轄する空港事務所長宛てとし、DID上空(第2号)と飛行の方法の承認を地方航空局長宛てとしています。
事業者が日常的に持っている包括許可は、多くがDID上空・夜間・目視外・30m未満をまとめたもので、地方航空局長が出した許可です。緊急用務空域を扱う官署ですらない、ということになります。許可・承認の全体像はドローンの飛行許可・承認申請 完全ガイドで整理しています。
包括許可も全国包括も効かない。期間で押さえることもできない
「それなら、あらかじめ緊急用務空域も含めて包括で取っておけばいいのでは」という発想が出ます。これは制度上できません。
「一回の許可等の期間は、原則として3ヶ月以内とする。ただし、申請内容に変更を生ずることなく、継続的に無人航空機を飛行させることが明らかな場合には、1年を限度として許可等を行うものとする。ただし、5-1に掲げる緊急用務空域を飛行させる場合は、真に必要な日時又は期間及び時間帯に限り許可を行うものとする。」
包括申請の本質は「日時と場所を特定せずに、期間でまとめて許可を得る」ことです。緊急用務空域はその真逆で、真に必要な日時・期間・時間帯に限ってしか許可が出ません。前もって押さえておく設計が、審査要領のレベルで否定されています。
さらに審査要領2-2-1(3)c)は、飛行の経路について「飛行の経路が特定されない場合には、飛行が想定される範囲を記載すること。ただし、5-1に掲げる飛行を行う場合…は、当該範囲を可能な限り限定し記載する」としたうえ、緊急用務空域を含む第1項第1号の空域では緯度経度(世界測地系で秒単位)による飛行範囲と海抜高度を併記させています。場所をぼかしたままでは申請自体が成立しません。
| 項目 | DID上空などの包括許可 | 緊急用務空域 |
|---|---|---|
| 申請先 | 地方航空局長(DID上空・飛行の方法) | 飛行を行おうとする場所を管轄する空港事務所長 |
| 期間 | 原則3か月以内、継続的なら1年を限度 | 真に必要な日時又は期間及び時間帯に限る(審査要領3-3ただし書) |
| 場所の特定 | 「飛行が想定される範囲」で足りる | 可能な限り限定し、緯度経度(秒単位)と海抜高度を記載 |
| 事前に取れるか | 取れる(更新して回す) | 取れない。指定されてから、その都度 |
| 航空情報 | 原則不要 | 必要。飛行を行う日の前日までに管轄事務所長等へ通知する体制(審査要領5-1(3)) |
包括申請そのものの考え方は包括申請とは。個別申請との違いと、使い分けの判断基準、全国を範囲にした申請の限界は全国包括は取れるか。標準マニュアル02の使い方で扱っています。全国包括を持っていても、緊急用務空域だけは別枠という関係は変わりません。
どんなときに指定され、どう解除されるか
Q&A A.1は指定の場面をこう書いています。「令和3年6月1日以降、災害等の規模に応じ、捜索、救助等活動のため緊急用務を行う航空機の飛行が想定される場合に、ドローン・ラジコン機等の飛行が原則禁止される『緊急用務空域』が新たに指定されます。」
教則第5版は、この空域を「消防、救助、警察業務その他の緊急用務を行うための航空機の飛行の安全を確保する必要がある空域」と言い換えています。守られているのは有人機です。地上の人や物件の安全のために設けられた空域ではなく、消防・警察・自衛隊等のヘリコプターとドローンが同じ高度帯で交錯することを避けるための空域だ、と読むと全体が理解しやすくなります。
公示と、解除の公示
規則第236条の71第2項は「国土交通大臣は、前項第四号の規定による指定をしたときは、インターネットの利用その他の適切な方法により、その旨及び当該指定に係る緊急用務空域を公示しなければならない」と定め、第3項で「前項の規定は、第一項第四号の規定による指定の変更又は解除について準用する」としています。指定だけでなく、範囲の変更と解除も公示されます。
飛行のたびに確認する。手順と、画面の見方
確認は義務です。条文はこうです。
「無人航空機を飛行させる者は、その飛行を開始する前に、当該無人航空機を飛行させる空域が緊急用務空域に該当するか否かの別を確認しなければならない。」
条文は「該当するか否かの別」と書いています。該当しないことを確かめる行為そのものが義務です。指定が1件も出ていない平常時であっても、確認を省略してよいという構造にはなっていません。
Q&A A.1も「ドローン・ラジコン機等を飛行させる方には、飛行開始前に、飛行させる空域が『緊急用務空域』に該当するか否かの確認義務が課されます」と書いています。教則第5版は飛行前の準備の「地域情報の収集」にこの確認を組み込み、条例や立入禁止区域の情報と並べて「緊急用務空域や飛行自粛要請空域の情報も含め飛行予定地域の情報を収集する」としています。
どこを見るか
公示先は、教則第5版とQ&Aがそろって国土交通省のホームページとX(旧Twitter)としています。Xのアカウントは@mlit_mujinkiです。ホームページ側の掲載場所は無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルールのページで、「緊急用務空域の公示」という見出しの下に「現在の緊急用務空域の指定状況について」の欄があります。
2026年9月29日に確認した時点では、同ページのバナーは「緊急用務空域は指定なし/現在、緊急用務空域は指定されていません。」の表示でした。ページには赤字で「※緊急用務空域の指定の有無について、ドローン・ラジコン機等を飛行させる前に必ず事前確認を行ってください。」という注意書きが常設されています。
指定が出ていないことは、飛んでよいことと同じではない——というのが国土交通省の案内です。
DIPS2.0の掲示
DIPS2.0のポータルトップにも、お知らせとして「【お知らせ】緊急用務空域に関する情報について(現在:指定空域なし)」の掲示があります(2026年9月29日確認。掲示自体の日付は2026年5月19日)。ただしDIPS2.0の地図上に緊急用務空域が描画されるとする公式の記述は確認できませんでした。規則第236条の71第2項が求めているのは大臣の公示であり、教則・Q&Aが公示の方法として挙げているのはホームページとXです。確認の起点は、DIPS2.0ではなく航空局のページとXに置いてください。
飛行中に指定されたとき。操縦者は見ていられない
確認して離陸したあとに指定されることがあります。Q&A A.3は、その場合の義務をこう書いています。
問題は、誰が気づくのかです。Q&A A.4は、そこに運用の設計まで踏み込んでいます。
「飛行中、操縦者は飛行に専念することが求められることから、補助者・運航管理部門が「緊急用務空域」の設定等の情報を収集し、トランシーバー等により操縦者に対して必要な指示・助言を与えるようにしてください。」
「合わせて、必要に応じ飛行マニュアルに位置付けることを検討してください。」(緊急用務空域Q&A A.4)
公式が想定しているのは、操縦者ではない誰かが、飛行中ずっと指定情報を監視し続ける体制です。ヘリコプターのローター音や現場の雑踏の変化まで手がかりとして挙げているのは、公示がリアルタイムで届くとは限らないからでしょう。
ここは会社として先に決めておける部分です。誰が航空局のページとXを見続けるのか、操縦者にどう伝えるのか、伝わったら何秒で降ろすのか——A.4はそれを飛行マニュアルに位置づけることまで勧めています。飛行マニュアルの作り方は独自の飛行マニュアルを作るべきときと作り方、役割分担の決め方は会社としての運航管理体制の作り方で扱っています。
100グラム未満の機体も飛ばせない
Q&A A.1には「(※規制対象は100g以上の無人航空機に限らず、すべての機体が対象です)」という注記があり、教則第5版の緊急用務空域の項も「(重量100グラム未満の模型航空機も飛行禁止の対象となる)」と書いています。登録も要らないトイドローンでも、緊急用務空域では飛ばせないということです。
ただし、条文上の当て方は無人航空機とは違います。重量100グラム未満の機体は「無人航空機」ではなく「模型航空機」に分類されるため(教則第5版 3.1.1(2))、無人航空機を名宛人とする法第132条の85は直接は働きません。模型航空機に働くのは、法第134条の3(飛行に影響を及ぼすおそれのある行為)のほうです。
| 機体 | 緊急用務空域での扱い | 条文 |
|---|---|---|
| 無人航空機 (100グラム以上) |
飛行禁止。飛ぶには国土交通大臣の許可 | 法第132条の85第1項第1号 規則第236条の71第1項第4号 許可は法第132条の85第2項 |
| 模型航空機 (100グラム未満を含む) ※管制圏・情報圏・特別管制空域等の中 |
国土交通大臣の許可がなければ飛行できない | 法第134条の3第1項 規則第239条の2第1項第4号・同項第1号ハ |
| 模型航空機 (上記以外の空域) |
あらかじめ国土交通大臣に通報しなければ飛行できない | 法第134条の3第2項 規則第239条の3第1項第4号・同項第1号ハ |
規則第239条の2・第239条の3は、どちらも対象空域の列挙のハに「緊急用務空域」を名指しし、その空域で模型航空機を飛行させることを規制対象の行為に挙げています。教則第5版 3.1.1(2)7)も「国土交通省が災害等の発生時に…緊急用務空域を設定した場合には、当該空域における飛行も禁止される」としています。
違反したときの罰則を条文で確かめる
罰則の条番号は、解説サイトで最も取り違えられている部分です。現行の航空法で当たるのは次のとおりです。
| 違反の内容 | 罰条 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 緊急用務空域で無人航空機を飛行させた (技能証明・機体認証の要件を満たさない場合=法第132条の85第1項違反) |
第157条の9第9号 | 50万円以下の罰金 |
| 許可を受けずに緊急用務空域で飛行させた (法第132条の85第2項違反) |
第157条の9第10号 | 50万円以下の罰金 |
| 法人の業務に関して従業者が上記の違反をした | 第159条第2号 (両罰規定) |
行為者を罰するほか、その法人に対して各本条の罰金刑 |
| 模型航空機を、管制圏等の中の緊急用務空域で許可なく飛行させた (法第134条の3第1項違反) |
第150条第9号 | 50万円以下の罰金 |
| 模型航空機を、上記以外の緊急用務空域で通報せずに飛行させた (法第134条の3第2項) |
第161条第3号 | 30万円以下の過料 |
なお、刑法改正により現行法の表記は「懲役」ではなく「拘禁刑」です。国土交通省の案内ページには旧表記が残っている箇所があります。
実務で重いのは、むしろ両罰規定のほうでしょう。第159条第2号は第157条の9を列挙しており、従業者が業務として違反すれば、法人にも罰金刑が科されます。緊急用務空域の確認を個人の注意力に委ねず、体制として組む理由がここにあります。
それでも飛ぶ必要があるときの、一本道
Q&A A.3は、最後にこう書いています。「なお、飛行の目的が『災害等の報道取材やインフラ点検・保守など、「緊急用務空域」の指定の変更又は解除を待たずして飛行させることが真に必要と認められる飛行』に限り、新たに国土交通大臣の飛行許可を取得してください。」
「真に必要」の中身は、審査要領5-1(2)c)の追加基準として7項目が置かれています。要点は次のとおりです。
- 目的が報道取材やインフラ点検・保守など、指定の変更・解除を待たずに飛ばすことが真に必要と認められる飛行であること
- 空港事務所および緊急用務空域を飛行する航空機の運航者等の関係機関と常に連絡がとれる体制を確保すること
- 飛行経路全体を見渡せる位置に、航空機と無人航空機の飛行状況・気象の変化を常に監視できる補助者を配置し、助言させること
- 航空機や法第132条の92の適用を受けた無人航空機の接近を確認したら直ちに降下させ、衝突のおそれがないと確認できるまで飛行させないこと
- 関係機関から中止・飛行計画の変更の指示があれば従い、情報提供を求められれば報告すること
- 原則として第三者の上空で飛行させないこと
手続きの側も通常とは違います。申請先は空港事務所長、許可は真に必要な日時・期間・時間帯に限られ、申請書には緯度経度(世界測地系で秒単位)と海抜高度を書き、さらに審査要領5-1(3)により飛行を行う日の前日までに管轄事務所長等へ飛行日時・経路・高度・機体数・機体諸元を通知して航空情報を発行してもらう体制を作る必要があります。
なお、報道取材やインフラ点検を業務としている事業者にとっては、平時の許可の取り方そのものが備えになります。点検業務の許可・承認はインフラ点検でドローンを使うのに必要な許可・承認、撮影業務は空撮・映像制作でドローンを使うのに必要な許可・承認と、撮影前の確認で扱っています。
捜索救助の特例で飛ぶ人と、同じ空域に併存する
緊急用務空域の飛行禁止には、例外がひとつあります。航空法第132条の92の捜索救助の特例の適用を受ける飛行です。同条は法第132条の85を丸ごと適用除外にするため、緊急用務空域の飛行禁止も及びません。Q&A A.3が中止義務の対象から「航空法第132条の92の適用を受けて無人航空機を飛行させる者」を明示的に除いているのも同じ理由です。
ただし主体は限られます。法文が書くのは都道府県警察、規則第236条の88が加えるのが国・地方公共団体と、これらの依頼により捜索若しくは救助を行う者です。教則第5版は「国や地方公共団体にかかわらない独自の活動にあっては、特例の対象とはならず、国の飛行の許可・承認などの手続き等が必要となる」としています。特例の要件と、民間事業者が「依頼を受けた者」に当たるかの整理は災害対応の記事に譲ります。
なお運用ガイドラインは、特例の対象者が緊急用務空域を飛ぶ場合であっても、空港等の管理者や空域を管轄する関係機関と調整のうえ、管轄の空港事務所に電話し電子メール等で通知することを求めています。特例は「連絡不要」という意味ではありません。
よくある質問
- e-Gov法令検索|航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)
- e-Gov法令検索|航空法施行規則(昭和二十七年運輸省令第五十六号)
- 国土交通省|無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルール(緊急用務空域の公示)
- 国土交通省|緊急用務空域の設定に関するQ&A(令和5年11月30日時点版・PDF)
- 国土交通省|無人航空機の飛行の安全に関する教則 第5版(PDF)
- 国土交通省|無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領(カテゴリーⅡ飛行)(PDF)
- 国土交通省|航空法第132条の92の適用を受け無人航空機を飛行させる場合の運用ガイドライン(PDF)
- 国土交通省|無人航空機に係る規制の運用における解釈について(解釈通達・PDF)
- ドローン情報基盤システム(DIPS2.0)ポータル