点検業務のドローンをどう選ぶか。重量区分・型式認証・限定変更の組み合わせ
点検用のドローンを選ぶとき、実際に決まっているのは機材のスペックだけではありません。その機体を選んだ時点で、これから何年ぶん、どの手続を踏み続けるかが決まります。 航空法の制度は、①重量(100g未満/25kg以下/25kgを超える)、②機体認証・型式認証を受けているか、③操縦者の技能証明にどの限定が付いているか——この3つの組み合わせで、許可・承認の要否がほぼ決まる構造になっています。 この記事は、点検現場の条件から逆算して機体の要件を決めるための整理です。煙突や鉄塔のように150m以上へ上がる現場か、トンネル内部のように航空法の外に出る現場か、夜間や目視外が前提の現場か。条件が変わると、必要な重量区分も認証も限定も変わります。 機体認証制度そのものの説明は機体認証・型式認証とは。第一種と第二種の違いで、費用の比較は認証機体を買うか、許可・承認で回すかで扱っています。本記事は特定のメーカー・製品名・価格には触れません。一次ソースのない比較になるためです。
法第132条の85/第132条の86・教則 第5版 3.1.1(2)3)b法第132条の85・第132条の86の各括弧書き教則 第5版 3.1(1)・3.1.2(2)1)b機体選定は、制度の分かれ目を選ぶこと
点検でドローンを導入するとき、比較表に並ぶのは飛行時間、耐風性能、センサーの種類、撮影解像度といった項目です。それは当然必要な比較ですが、制度の側から見ると、機体を1台決めるという行為は、まったく別の3つのスイッチを同時に押すことになります。
順番も重要です。点検業務では、現場の条件が先に決まっていて、機体はそれに合わせて選ぶのが実態です。150m級の煙突がある、トンネルの覆工を見たい、夜間の規制帯に合わせるしかない、市街地の橋梁である——こうした条件のほうが動かせません。ですから、比較表を作る前に現場の条件から必要な特定飛行の類型を洗い出し、そこから機体の要件へ逆算するのが正しい順序です。その洗い出しそのものはインフラ点検でドローンを使うのに必要な許可・承認で扱いました。本記事はその続きに当たります。
重量の3区分。100g未満・25kg以下・25kgを超える
航空法の重量の線は2本しかありません。100gと25kgです。ただし、この2本が引かれている場所が制度上まったく違います。
100gの線は、航空法の内か外かの線
航空法第2条第22項は無人航空機を定義したうえで、末尾に「その重量その他の事由を勘案してその飛行により航空機の航行の安全並びに地上及び水上の人及び物件の安全を損なうおそれがないものとして国土交通省令で定めるものを除く」という括弧書きを置いています。そしてその省令が施行規則第5条の2で、「法第二条第二十二項の国土交通省令で定める機器は、重量が百グラム未満のものとする」と定めています。
つまり100g未満の機器は、そもそも無人航空機に当たりません。機体登録も、特定飛行の許可・承認も、飛行計画の通報も、飛行日誌も、航空法上は対象外です。教則第5版は「100グラム未満のものは、無人航空機ではなく、『模型航空機』に分類される」と書いています。
25kgの線は、手続の重さの線
25kgの線は、航空法の内側に引かれた線です。こちらを越えても航空法の対象であり続けますが、踏むべき手続の重さが変わります。しかも1か所ではなく、次のように制度の複数の場所に同じ線が現れます。
| 場面 | 25kg以下(=25kgを超えない) | 25kgを超える | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 登録時の申告 | 重量の区分は「二十五キログラム未満」 | 重量の区分は「二十五キログラム以上」 | 施行規則第236条の3 第1項第9号 |
| 登録記号の文字高 | 3ミリメートル以上 | 25ミリメートル以上 | 施行規則第236条の6 第1項第1号ハ |
| DID上空 (立入管理措置あり) |
規程の作成等の措置で足りる余地がある | 許可が必要 | 法第132条の85 第2項・第3項 |
| 夜間・目視外・30m未満 (立入管理措置あり) |
規程の作成等の措置で足りる余地がある | 承認が必要 | 法第132条の86 第3項・第4項 |
| 第三者賠償責任保険 | 任意(申請書には加入状況を記載) | 加入していることが審査要領上の基準 | 審査要領4-3-1(19) |
| 技能証明の限定 | 「最大離陸重量25kg未満の回転翼航空機(マルチローター)」等の限定で足りる | 重量の限定が付かない種類の限定が必要 | 施行規則第236条の40 第1項 |
点検用の機体は、打音装置や接触式のセンサー、大型の赤外線装置、長時間飛行のためのバッテリーを積むと重量が伸びます。「あと少し積みたい」が25kgの線を越えた瞬間に、上の表の6行が全部切り替わります。機材の追加を検討するときは、重量の管理を制度の管理と同じ列に並べておく価値があります。
25kgの境目は、条文の括弧書きで効いている
「25kg以上は技能証明と機体認証があっても個別の許可・承認が必要」という説明は広く流通しています。これは正しいのですが、根拠として教則のカテゴリーⅡA・ⅡBの区分だけが引かれることが多く、条文のどこで効いているのかが見えにくい。ここを条文で押さえておくと、機体選定の判断がぶれなくなります。
まず総重量の値です。施行規則第236条の73は「法第百三十二条の八十五第二項及び第三項並びに法第百三十二条の八十六第三項及び第四項の国土交通省令で定める総重量は、二十五キログラムとする」と定めています。つまり25kgという数字は、法律の4つの項に同時に効いているということです。
空域の側(第132条の85)
第132条の85第3項は、立入管理措置を講じてDID上空(同条第1項第2号の空域)を飛行させる者について、「無人航空機(国土交通省令で定める総重量を超えるものを除く。)」と書いたうえで、国土交通省令で定める措置を講じなければならないとしています。その措置が施行規則第236条の75の「無人航空機を安全に飛行させるために必要な事項を記載した規程の作成及び当該規程の遵守」です。
一方同条第2項は、DID上空について「立入管理措置を講ずることなく無人航空機を飛行させる場合又は立入管理措置を講じた上で国土交通省令で定める総重量を超える無人航空機を飛行させる場合に限る」という括弧書きを置き、その場合は国土交通大臣の許可が必要だとしています。
方法の側(第132条の86)
同じ構造が飛行の方法にもあります。第132条の86第3項は承認の対象を定める項ですが、その括弧書きが決定的です。
第2項の各号は、第1号が夜間(日出から日没までの間)、第2号が目視、第3号が人又は物件から30m(施行規則第236条の79)、第4号が催し場所上空、第5号が危険物輸送、第6号が物件投下です。したがって立入管理措置を講じ、かつ25kgを超えない機体なら、承認の対象は第4号から第6号(催し・危険物・物件投下)に絞られる。そして同条第4項が、第1号から第3号(夜間・目視外・30m未満)については「規程の作成等の措置」で足りる道を開いています。こちらも対象は「国土交通省令で定める総重量を超えるものを除く」機体です。
なお、ここで見ているのはあくまで25kgの線です。空港等周辺・緊急用務空域・150m以上の空域(法第132条の85第1項第1号の空域)は、重量が何kgであっても、また機体認証と技能証明が揃っていても、第132条の85第2項の許可の対象です。点検業務でこれが重いのは、150m以上が高所構造物の点検で頻出するからです。カテゴリーの全体像は立入管理措置とは。現場で実際に何をするのか、立入管理措置を講じない飛行についてはカテゴリーⅢ飛行の要件で扱っています。
25kgを超えると、第三者賠償責任保険が要件になる
もう1つ、25kgの線に紐づいた条件があります。保険です。教則第5版 2.3.3 は、無人航空機の保険について「車の自動車損害賠償責任保険(自賠責)のような強制保険はなく、すべて任意保険である」と書いた上で、次のように続けています。
実体は審査要領の側にあります。審査要領(カテゴリーⅡ飛行)4-3-1(19)の原文は「総重量25kg以上の無人航空機を飛行させる場合には、第三者の負傷や交通障害等の不測の事態が発生した場合に十分な補償が可能となる第三者賠償責任保険に加入していること。」です。申請書の記載側も、同2-2-1(8)が25kg以上の場合について、加入状況だけでなく保険の内容の記載を求めています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 位置づけ | 審査要領4-3-1(許可等の基準)の1項目。教則は保険が任意保険であることを明記したうえで、25kg以上について加入を求めています |
| いつから | 2025年(令和7年)10月1日から。審査要領の附則(令和7年3月19日国空無機第100036号)が「この審査要領は、令和7年3月24日から施行する。ただし、2-2-1及び4-3-1の改正規定は、令和7年10月1日から施行する」としています |
| 25kg以下の場合 | 加入は義務づけられていませんが、申請書には加入状況(保険会社名・商品名・補償金額)を記載し、加入していない場合は賠償能力の有無等の情報を記載することとされています |
| もう1つの対象 | 審査要領5-4(3)c)カ)に示す移動中の車両・列車・船舶の上空を通過する飛行(レベル3.5飛行)も、同じ保険の要件がかかります |
機体選定の観点では、25kgを超える機体を選ぶことは、保険の維持費を制度上の固定費として抱えることを意味します。金額は各社の商品によるため本記事では扱いませんが、「加入していること」が審査の基準に入っているという点は押さえておく必要があります。落として人や物を傷つけたときの責任の整理はドローンを落として人にけがをさせたときの責任で扱っています。
登録記号の文字高とリモートID。機体側の物理的な条件
ここは手続ではなく、機体そのものに施す加工と装備の話です。導入時に見落とすと、機体が届いてから慌てる部分です。
登録記号の表示
航空法第132条の5が登録記号の表示等の措置を義務づけ、施行規則第236条の6第1項第1号が具体的な方法を定めています。
- イ 登録記号は「装飾体でないアラビア数字又はローマ字の大文字により、耐久性のある方法で、鮮明に表示すること」
- ロ 「無人航空機の胴体のうち、容易に取り外すことができない部分の表面であつて外部から容易に確認できる場所に表示すること」
- ハ 文字及び数字の高さは、25kg未満の区分の機体は3ミリメートル以上、25kg以上の区分の機体は25ミリメートル以上
- ニ 「登録記号の色は、表示する場所の地色と鮮明に判別できるものとすること」
教則第5版も同じ内容を「登録記号の文字は機体の重量区分に応じて次の高さとし…最大離陸重量25kg以上の機体は25mm以上/最大離陸重量25kg未満の機体は3mm以上」と書いています。25mmという高さは、機体の塗色や意匠に実際に影響する大きさです。大型機を導入するときは、胴体のどこにこの大きさで入れられるかを事前に見ておく価値があります。
リモートIDの搭載義務と、免除される場合
同じ施行規則第236条の6第1項第2号が、登録記号の表示に加えてリモートID機能を備えることを求めています。方法は2つあり、イが機体に内蔵されたリモートID機能に登録記号等を入力する方法、ロがリモートID機能を有する機器を機体に装備してそこに入力する方法です。内蔵型の機体を選ぶか、外付型の機器を足すかという選択が、条文の側でも想定されています。
そして同条第2項が、リモートID機能を備える義務を適用しない飛行を3つ挙げています。
| 免除される飛行 | 条文上の要件 | 点検業務での使いどころ |
|---|---|---|
| 届出区域の上空での飛行 | あらかじめ国土交通大臣に届け出たところに従って当該届出に係る区域の上空で行う飛行で、飛行を監視するために必要な補助者の配置その他の措置と、区域の範囲を明示するために必要な標識の設置その他の措置が講じられているもの。届出書には氏名等の連絡先・登録記号・飛行の日時、区域及び高度等を記載する(同条第3項) | 訓練場や、同じ敷地で反復して飛ばす自社設備の点検で、区域を固定できる場合 |
| 係留しての飛行 | 十分な強度を有する紐等(長さが30メートル以下のものに限る)で係留することにより飛行の範囲を制限した上で行う飛行 | 後述。近接点検で係留を使う設計と重なる |
| 秘匿を必要とする業務 | 警察庁、都道府県警察又は海上保安庁その他国土交通大臣が指定する機関の業務であって、警備その他の特に秘匿を必要とするもののために行う飛行 | 民間の点検事業者には該当しません |
発信される情報についても押さえておく価値があります。教則第5版は、リモートIDが発信するのは静的情報として製造番号及び登録記号、動的情報として位置・速度・高度・時刻などであり、所有者や使用者の情報は含まれない、そして1秒に1回以上発信されるとしています。発注者から「誰が飛ばしているか外部に分かるのか」と聞かれたときに答えられる内容です。登録制度そのものは無人航空機の登録制度 完全ガイド、更新の窓は機体登録の更新で扱っています。
技能証明の限定は「機体の種類」の中に重量が入っている
ここは条文を読まないと構造を誤解しやすい部分です。実務ではよく「限定変更の対象は夜間飛行・目視外飛行・最大離陸重量25kg以上の3つ」と説明されます。結論としてはそのとおりですが、条文の建てつけは違います。
施行規則第236条の40第1項は、技能証明の限定の対象となる「無人航空機の種類」を6つ挙げています。
| 号 | 無人航空機の種類 | 読み方 |
|---|---|---|
| 第1号 | 最大離陸重量25キログラム未満の回転翼航空機(ヘリコプター) | 重量が限定に組み込まれている側。この限定のままでは25kg以上の機体で特定飛行を行えない |
| 第3号 | 最大離陸重量25キログラム未満の回転翼航空機(マルチローター) | |
| 第5号 | 最大離陸重量25キログラム未満の飛行機 | |
| 第2号 | 回転翼航空機(ヘリコプター) | 重量の限定が付かない側。実務上「25kg以上の限定変更」と呼ばれているのは、こちらへ移ること |
| 第4号 | 回転翼航空機(マルチローター) | |
| 第6号 | 飛行機 |
そして同条第2項が、飛行の方法についての限定を定めます。挙げられているのは2つだけです。「法第百三十二条の八十六第二項第一号に掲げる方法」(=日出から日没までの間において飛行させること=昼間)と、「同項第二号に掲げる方法」(=目視により常時監視して飛行させること=目視内)。つまり条文上は「夜間」「目視外」という限定があるのではなく、「昼間」「目視内」という限定が付く構造です。夜間や目視外を行うには、その限定を外す(限定変更を受ける)必要があります。
なお、法第132条の43第2項は、限定をされた技能証明を受けた者は「その限定…をされた種類の無人航空機又は飛行の方法でなければ、…特定飛行を行つてはならない」としつつ、ただし書で法第132条の85第4項及び第132条の86第5項に該当する場合を除いています。つまり係留等の例外に当たる飛行と、許可・承認を受けた飛行は別扱いです。技能証明の有効期間と更新は技能証明の更新で扱っています。
型式認証・機体認証を選ぶと何が変わるか
3つ目のスイッチです。ここは既存の記事で詳しく扱っているため、機体選定の判断に直接効く点だけを並べます。
| 論点 | 機体選定への効き方 |
|---|---|
| 型式認証は 重量区分ごとに与えられている |
国土交通省が公表している「型式認証を取得している無人航空機一覧」(令和8年6月19日現在)には「重量区分」欄があり、実際に使われている値は4kg未満/4kg以上25kg未満/25kg以上の3つです。同じ系列の機体でも、重量区分が違えば別の型式として認証されています。「あのシリーズは認証済み」という言い方では足りず、型式単位で確認する必要があります |
| 型式認証の有無で 手数料の桁が変わる |
機体認証は1機ごとに受けるものですが、型式認証を取得している型式であれば設計及び製造過程の検査が全部又は一部省略され、その差が手数料に現れます。全区分の金額は機体認証の手数料に掲載しています。機体選定の段階で型式認証の有無を見るかどうかで、後から動かせない差が生じます |
| 有効期間が 第一種1年・第二種3年 |
立入管理措置を講じる前提の点検業務(カテゴリーⅡ)なら第二種で足り、期間は3年です。立入管理措置を講じない飛行(カテゴリーⅢ)に踏み込むなら第一種で、期間は1年。台数が増えるほど更新の管理が積み上がります |
| 25kg以上の型式認証機体も存在する | 一覧には重量区分が「25kg以上」の型式も含まれています。ただし前述のとおり、25kgを超える機体では申請の免除が働きません。この場合の認証の利点は、申請書類の一部省略にとどまります |
| 認証後にも 義務が続く |
機体認証の際には使用の条件が指定され(法第132条の13第3項)、使用条件の遵守義務と整備の義務があります(同第132条の14)。従わない場合は整備命令や効力停止の対象になり得ます(同第132条の15)。認証は取得して終わりではなく、条件の範囲内で使い続けることが前提です |
点検現場の条件から、機体の要件を逆算する
ここまでの材料を、現場の条件の側から並べ直します。点検業務は現場の条件が先に決まっているので、この向きで読むほうが実務に噛み合います。
屋内・トンネル内部で完結する現場
国土交通省の解釈通達は、屋内での飛行には航空法の無人航空機に関する各規制が適用されないとしており、この「屋内」にはトンネル内部やネット等で囲われた空間も含まれるものとされています。登録の側でも、屋内のみを飛行させる場合は登録の対象外とされています。
機体選定への効き方はこうです。屋内で完結する現場だけを扱うなら、重量区分も認証も限定も、航空法の側からは要件になりません。代わりに主戦場が移ります。閉所での通信やGNSSの途絶への備え、プロペラガード等の接触対策、照明、施設管理者の承諾、労働安全衛生上の措置。屋内点検向けの機体は、航空法の要件ではなく現場のリスク管理の要件で選ぶことになります。
煙突・鉄塔のように150m以上へ上がる現場
この類型が、点検業務の機体選定でもっとも判断を左右します。教則第5版 3.1.2(2)3)b は、150m以上の空域の例外について次のように書いています。
ただし書がこの記事にとっての要点です。空域の側(許可)は構造物から30m以内なら除外され得るが、方法の側(承認)は残る。そして残るのは30m未満であり、これは前述のとおり25kgを超えない機体+立入管理措置なら「規程の作成等」で回せる範囲です。つまり高所構造物の点検では、構造物に寄り続ける経路設計と、25kg以下の機体選定を組み合わせると、手続の重さが大きく変わり得るということになります。
なお「関係者による飛行を除き」という部分は、点検の発注者が解釈通達6.(1)②の間接関与者に当たるかという論点につながります。要件は3つあり(飛行目的についての共通認識、操縦者からの明確な指示と安全上の注意、関与するかを自ら決定できること)、一律には決まりません。満たすと言い切れない場合は、30m未満の承認を取る前提で設計するのが安全です。送電線や鉄塔の点検については送電線・電力設備の点検でドローンを使うのに必要な許可・承認で、太陽光発電設備については太陽光発電設備の点検で扱っています。
夜間・目視外が前提の現場
供用中の道路や鉄道の夜間規制帯に合わせる案件、稼働を止められないプラントの停止時間帯に合わせる案件では、夜間が前提になります。桁裏や構造物の裏側に入る点検では目視外が前提になります。
ここで効くのは機体ではなく人の側です。前章のとおり、技能証明の飛行の方法についての限定は昼間・目視内の2つで、夜間や目視外を申請なしで行うにはその限定を外す必要があります。機体認証を受けた機体を用意しても、操縦者の限定が外れていなければ、夜間・目視外は承認の側に残ります。加えて、限定は実地試験に使った機体で決まるため、どの機体で試験を受けるかという判断が、機体選定と同時に発生します。
なお、解釈通達は「目視」を操縦者本人が自分の目で見ることとし、補助者による目視は該当せず、モニターや双眼鏡による監視も該当しないとしています。補助者を増やしても目視外という扱いは変わりません。機体側で夜間に必要になるのは灯火と暗所での位置把握の手段ですが、灯火の具体的な仕様を定めた条文は本記事の確認範囲では見つかっていません。飛行マニュアルの側で夜間の体制を定めることになります。点検専用の標準マニュアルとの関係はインフラ点検専用の標準マニュアルがある。一般版との違いで扱っています。
市街地の現場(DID)
都市部の橋梁、ビル外壁、市街地に立つ煙突や鉄塔は、ほぼDIDに当たると想定して設計するのが現実的です。ここでも25kgの線が効きます。立入管理措置を講じ、25kgを超えない機体なら「規程の作成等」で足りる余地がありますが、25kgを超える機体では許可に戻ります。なお2026年7月1日から、用途地域が「工業専用地域」の区域はDIDの許可の対象外になりました。臨海部のコンビナートや工場地帯の設備点検では、まず用途地域を確認する価値があります(工業専用地域は、DIDの中でもDIDの飛行許可が要らなくなった)。建築物の外壁を赤外線で調査する場合の建築基準法側の手続は建築物の外壁調査(定期報告)にドローンを使うで扱っています。
係留を、機体側の設計として捉える
係留は「飛ばし方」の話に見えますが、機体側の設計に踏み込む選択です。取付点の強度、紐の巻き取り機構、係留下での飛行制御、風での張力——いずれも機体と装備の側で決まります。
制度上の効果は大きいものです。教則第5版 3.1.2(2)3)c は「十分な強度を有する紐(ひも)等(30メートル以下)で係留し、飛行可能な範囲内への第三者の立入管理等の措置を講じて無人航空機を飛行させる場合は、人口集中地区、夜間飛行、目視外飛行、第三者から30メートル以内の飛行及び物件投下に係る手続き等が不要である」としています。さらにリモートID機能の搭載義務も免除される(施行規則第236条の6第2項第2号)。同じ「30m以下の係留」が、許可・承認とリモートIDの両方に効いているのがこの制度の特徴です。
| 確認すべき点 | 内容 |
|---|---|
| 空域側で効くのは DIDだけ |
施行規則第236条の76は4つの要件を並べており、その第1号が「法第百三十二条の八十五第一項第二号に掲げる空域において飛行させること」=DIDです。空港等周辺・緊急用務空域・150m以上には、係留の例外は働きません。高所構造物の点検で係留を使っても、150m以上の空域の許可は消えません |
| 「範囲内に物件が存しない」要件 | 同条第3号は「前号の範囲内に地上又は水上の物件が存しない場合に飛行させること」。近接点検は対象の構造物に寄る作業ですから、この要件との関係が問題になります |
| 立入管理措置も必要 | 同条第4号は「補助者の配置その他の第二号の範囲内において無人航空機を飛行させる者及びこれを補助する者以外の者の立入りを管理する措置を講じて飛行させること」 |
| えい航は係留ではない | 教則第5版は「自動車、航空機等の移動する物件に紐等を固定して又は人が紐等を持って移動しながら無人航空機を飛行させる行為(えい航)は、係留には該当しない」としています。紐を持った補助者が歩きながら桁下を追う運用は、係留には当たりません |
組み合わせを1枚に
最後に、現場の条件と機体の要件の対応を1枚にします。「この現場ならこの機体」という表ではなく、「この現場だとどのスイッチが押されるか」の表です。
| 現場の条件 | 重量区分 | 認証 | 限定 | 手続の残り方 |
|---|---|---|---|---|
| トンネル内部・建屋内で完結 | 航空法の要件にならない | 同左 | 同左 | 航空法の許可・承認・登録・日誌の対象外。施設管理者の承諾と労働安全衛生が主戦場 |
| 屋外・近接点検のみ (30m未満+目視外) |
25kgを超えないことが鍵 | 認証+技能証明で申請を不要にできる範囲 | 目視外の限定変更が必要 | 認証・証明・限定が揃えば規程の作成等で足りる余地。揃わなければ承認 |
| 市街地の橋梁・ビル外壁 (DID+30m未満) |
25kgを超えないことが鍵 | 同上 | 目視外を含むなら限定変更 | 同上。用途地域が工業専用地域ならDIDの許可は不要 |
| 煙突・鉄塔 (150m以上へ上がる) |
25kgを超えないことが望ましい | 認証があっても150m以上の許可は残る | 目視外を含むなら限定変更 | 構造物から30m以内に留まれば空域の許可が除外され得るが、30m未満の承認は残る(教則第5版3.1.2(2)3)b) |
| 夜間の規制帯に合わせる | 25kgを超えないことが鍵 | 認証+技能証明 | 夜間の限定変更が必要 | 限定が外れていなければ夜間は承認の側に残る |
| 大型センサー・打音装置を積む (25kgを超える) |
25kg超 | 型式認証機でも申請の免除は働かない | 重量の限定が付かない種類の限定が必要 | 夜間・目視外・30m未満は承認、DIDは許可。加えて第三者賠償責任保険の加入が審査要領上の基準 |
| 100g未満の機体を使う | 100g未満 | 制度の対象外 | 制度の対象外 | 航空法の対象外。ただし小型無人機等飛行禁止法は重量を問わず、緊急用務空域は模型航空機も飛行禁止 |
| 第三者の上空を飛ばす (立入管理措置を講じない) |
— | 第一種機体認証(有効期間1年) | 一等技能証明 | カテゴリーⅢ。一等+第一種を揃えてもなお大臣の許可・承認が別途必要 |
よくある質問
- e-Gov法令検索|航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)(第2条第22項、第132条の5、第132条の13〜第132条の15、第132条の43、第132条の85、第132条の86、第132条の88〜第132条の91)
- e-Gov法令検索|航空法施行規則(昭和二十七年運輸省令第五十六号)(第5条の2、第236条の3、第236条の6、第236条の40、第236条の71、第236条の73、第236条の75、第236条の76、第236条の79、第236条の82)
- 国土交通省|無人航空機の飛行の安全に関する教則 第5版(令和8年7月7日公布・7月14日適用)(PDF)
- 国土交通省|無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領(カテゴリーⅡ飛行)令和8年9月29日最終改正(PDF)
- 国土交通省|無人航空機に係る規制の運用における解釈について(解釈通達・PDF)
- 国土交通省|型式認証を取得している無人航空機一覧(令和8年6月19日現在・PDF)
- 国土交通省|無人航空機の飛行許可・承認手続
- 国土交通省|無人航空機操縦者技能証明制度
- 国土交通省|航空局標準マニュアル①(インフラ点検等)令和7年12月26日版(PDF)
- 国土交通省告示第435号(人又は家屋の密集している地域から除外する地域・PDF)